「岬の兄妹」 2018年製作 日本 


片山慎三監督の『岬の兄妹』は、生活に追い詰められた兄(松浦祐也)が、自閉症の妹・真理子(和田光沙)に売春をさせて生き延びようとする姿を描いた人間ドラマです。

地方特有の閉塞感と、必死に生きようとする兄妹の姿が重なり合い、約1年をかけて撮影された90分は強い密度を感じさせました。重たい題材ながら、最後まで目を離せない作品でした。

この映画を観た人の感想には、「しんどい」「気が重くなる」「救いがない」「辛すぎて途中で観るのをやめた」といった声が多く並びます。確かに心を削られるような場面が続きますが、ぼく自身は、ただ落ち込むだけではありませんでした。

妹が客を取っているあいだ、兄が外をぶらぶら歩いている場面があります。そこで不良学生4人に絡まれ、面白半分に首を絞められ、ついには脱糞してしまいます。それでも兄は屈しません。その大便を投げつけて学生たちを追い払い、必死に抵抗します。

その直後、妹の売春の相手をした性体験が初めての学生が出てきて、「ありがとうございました」と感謝しながら握手を求めてきます。兄は、大便を投げたばかりの手で戸惑いながらも、へらへら笑って応じます。この場面には、可笑しさと切なさが入り混じり、ぼくも笑ってしまいました。

また、妹がさまざまな男性と裸で横になる場面では、抱き合う相手の顔だけが次々と入れ替わっていきます。性行為が感情を伴わない作業として淡々と繰り返され、妹の体を通過して金銭に変わっていく様子が、象徴的に表現されているように感じました。

兄妹で花火をする場面も印象的です。真理子が「綺麗ねぇ」とつぶやき、兄は笑いながら一緒に眺めます。静かなピアノ曲が流れる中、花火がなくなりかけると、真理子は名残惜しそうに「もう、おしまい?」と聞きます。

兄は少し切なそうに「おしまい」と答えます。その兄の表情からは、生きるために売春を選ばざるをえなかった自分たちの人生への、言葉にできない複雑な思いがにじんでいるように見えました。

ひとつだけ気になったのは、福祉に頼る描写がまったく出てこない点です。重い自閉症があり、通常の仕事が難しい妹を抱えていれば、制度の利用を勧める人が現れても不思議ではありません。その可能性に少しでも触れていれば、物語はさらに現実味を帯びたのではないかと思います。そこが描かれなかった点は、正直、惜しく感じました。