小児性愛者として有罪判決を受け、性的人身売買の容疑で起訴されたジェフリー・エプスタインは、2019年に勾留中の刑務所内で死亡しました。66歳でした。
●「FBIメモ」そこには被害者は1000人以上
すでに死亡しているにもかかわらず、彼と関係があった人物がいまだに大きなニュースとして取り上げられるのは、生前に事実が隠され続けていた結果だと考えられます。また、アメリカの事件であり、日本は無関係と思われていましたが、最近では日本人の関与が疑われる事案もいくつか報じられています。
彼がこれまでの犯罪者と異なる点は、島で少女を囲うという、大富豪ならではの規模の大きさです。多くの著名人をその島に招いていたとされています。
2008年の初回逮捕時の捜査では、確認されただけでも被害者は36人でした。その後、マイアミ・ヘラルド紙は約80人の被害者を特定しています。エプスタインの死後に設立された被害者補償プログラムでは150人が認定され、補償金として総額1億2100万ドル以上が支払われました。
さらに、トランプ政権が非公開としている「エプスタイン・ファイル」については、その一部が「FBIメモ」として公開されています。そこには被害者が「1000人以上」と記されています。発見された大量の写真や動画をもとに算出された可能性があります。
エプスタインは検死の結果、自殺とみられ、公判前に死亡しました。死後まもなく、世間では疑問の声が上がりました。
交友関係は政財界の大物から文化人まで幅広く、ほかにも人身売買に関与していた人物がいるのではないか、口封じのために殺害されたのではないか、といった陰謀論もささやかれました。
当局は、本人の死後数日が経過しても、基本的な事実さえ明らかにできませんでした。たとえば、死亡前日に同房者がなぜ別の部屋へ移されたのか、監視カメラに何が映っていたのか、死亡当日の朝に誰が発見したのか、さらに監視に当たっていたはずの2人の看守がどこにいたのかといった点です。
ジェフリー・エプスタインとは一体、何者だったのでしょうか。
● 複数の少女らによる告発
エプスタインは1953年、ニューヨーク市の労働者階級の家庭に生まれました。数学に優れ、高校を2年飛び級した後、ニューヨーク大学クーラント数学研究所に進学しましたが、学位を取得せずに中退しています。
教員資格を持っていませんでしたが、マンハッタンの一流私立高校で数学と物理を教え始め、短期間ながら教員として勤務しました。
その後、「女生徒に対して不適切な行動があった」と指摘されています。しかし、この件で処分を受けることはなく、「教員として成長が見られない」との理由で2年後に解雇されました。
ところが、ある生徒の父親がエプスタインの知性を高く評価していました。その父親は、同じ学校に子どもを通わせていた大手投資銀行ベア・スターンズのCEO、アラン・グリーンバーグに彼を紹介します。これをきっかけに、エプスタインはベア・スターンズに入社しました。
ベア・スターンズでは富裕層を顧客として成功を収めましたが、1982年に独立して自身の会社を設立します。
CNNの報道によると、同社が扱っていた顧客資産は10億ドル(現在のレートで約1460億円)を超えていたとされています。
1990年代までに、エプスタインは複数の国で不動産やマンションを所有し、カリブ海に島も保有していました。そして、世界の富裕層や影響力のある人物との交友を深めていきます。
その中には、英アンドルー王子、ビル・クリントン元大統領、ドナルド・トランプ大統領などが含まれていました。これらの人物はいずれも不正行為を否定しています。
エプスタインの秘密の生活が初めて明らかになったのは2005年です。複数の少女らによる告発がきっかけでした。金銭と引き換えに、パームビーチにある邸宅でマッサージや性行為を求められたと訴えました。
数年後に公開された大陪審の証言には、当時40代だったエプスタインが14歳の少女をレイプしたという内容も含まれていた。
● 死因は自殺で、顧客リストもない
トランプ氏は1990年代から2000年代初頭にかけて、エプスタインと交流がありました。
2021年に行われたエプスタインの協力者、ギレーヌ・マクスウェル受刑者の刑事裁判では、長年パイロットを務めたローレンス・ビソスキーが、トランプ氏がプライベートジェットに複数回搭乗したと証言しました。
裁判で証拠として提出された飛行記録には、1993年から94年の間に少なくとも6回、トランプ氏の名前が記載されていました。ただし、トランプ氏はこの事件に関連して起訴されていません。
トランプ氏は2024年1月9日、自身のソーシャルメディアで「私は一度もエプスタインの飛行機に乗ったことがない」と投稿しています。
司法省は7月7日、エプスタインの死因は自殺であり、「顧客リスト」も存在しないと結論づけたメモを公開しました。2024年の大統領選で、トランプ氏はエプスタインに関する追加の政府文書の公開を検討すると述べ、政府の透明性向上の一環として右派の要求に応えると約束していました。しかし、7日に公表されたメモは、その約束に反する内容でした。
一方、トランプ氏は7月8日、ホワイトハウスでこの問題から話題をそらそうとし、司法省のメモについて質問した記者を非難しました。そして「まだジェフリー・エプスタインのことを話しているのか」と問い返しました。
● 永遠に続くトラウマ
ジェフリー・エプスタインの元交際相手であるギレーヌ・マクスウェルは、公の場ではカップルとして姿を見せていました。しかし、水面下ではエプスタインのために少女たちを勧誘し、関係を築いたうえで、エプスタインやほかの男性のもとへ送り出していたとされています。
さらに、マクスウェル自身もエプスタインとともに少女に性加害に及んでいたと認定されています。
マクスウェルはの女性たちのあっせんなど6つの罪で逮捕され、2021年12月にそのうち5件で有罪判決を受けました。現地時間6月28日に量刑が言い渡され、懲役20年の実刑と5年間の保護観察、さらに75万ドル(約1億円)の罰金が科されました。
その後、被害を訴えた現在は成人となっている元少女たちによると、マクスウェルはフロリダやニューヨークでエプスタインの好みに合う少女に声をかけ、邸宅へ連れて行き、裸でのマッサージから始めて性行為を強いていたといいます。
さらに少女たちにエプスタインの前でどう振る舞うかコーチし、他の少女を見つけて連れてくるよう指示もしていた。その際、「14~15歳」「若いほどいい」と注文を付けていました。
アリソン・ネイサン判事は法廷で、「マクスウェルが少女たちに与えた被害は計り知れない。被害者は恐ろしく、永遠に続く心の傷を抱えて生きることを余儀なくされた」と述べました。
そして「性的虐待に関与し助長した者は、富裕層であっても権力者であっても、法の下で責任を問われる」と強調しました。さらに、法廷でのマクスウェルの態度について「反省が見られず、責任を認めていないように見えた」とも指摘しました。
そのマクスウェルは法廷で、エプスタインについて「人を操る狡猾で支配的な男だった」と述べ、「彼に出会ったことが人生最大の後悔だ」と語りました。
マクスウェルを刑事告訴した被害者の一人、ヴァージニア・ジュフリーは、弁護士を通じて声明を発表しました。その中で、ギレーヌ・マクスウェルこそが真の悪であると強調しました。

「ひとつだけはっきりさせておきたいのは、ジェフリー・エプスタインが間違いなくひどい小児性愛者だったということです。しかし、あなた(マクスウェル)がいなければ、私は彼に出会うことはありませんでした。あなたは残りの人生を独房で過ごすに値します。あなたが被害者を閉じ込めたように、あなたも永遠に檻の中に閉じ込められるべきです」
● 性的加害と人身売買の被害
ジュフリーは、エプスタインの邸宅でアンドルー王子から性的暴行を受けたとして提訴した人物です。ジュフリーと王子の裁判は示談で決着しました。
2025年4月24日、そのヴァージニア・ジュフリーさん(41)が亡くなりました。死因は自死でした。オーストラリア西部で暮らしていた農場で死亡したと報じられています。
ヴァージニアは1983年生まれで、フロリダ州で育ちました。7歳の頃から家族の友人に性的虐待を受けていたとされ、家庭環境に耐えられず12歳で家出しました。一時期、セックス・トラフィッカー(=性的人身売買を行う人物)とも暮らしたが14歳で自宅に戻っています。
17歳の夏、父親がトランプ氏のフロリダ州の邸宅マールアラーゴでメンテナンスの仕事をしていたことから、ヴァージニアも敷地内のスパでロッカールーム係として働き始めました。それまで目にしたことのない豪華な雰囲気に圧倒され、マッサージセラピストを目指すようになったといいます。
その後の2年間、ヴァージニアはエプスタインやマクスウェルとともに、ニューヨークやヴァージン諸島にある私有島へ連れて行かれ、意に反する行為を強いられたと証言しています。
ロンドンにも同行させられ、英国のアンドルー王子(1960年生、65歳)から3回にわたり性行為を強要されたと述べました。英国社交界で知られていたマクスウェルが、王子をエプスタインに紹介したとされています。
家族は声明で、ジュフリーさんが「性的加害と闘い続け、多くの虐待被害のサバイバーにとって希望の光だった」と述べました。一方で、「長年にわたる虐待の影響が、もはや耐え難いものになっていた」とも説明しています。そして「性的加害と人身売買の被害に苦しみ続けた末、自ら命を絶った」と明らかにしました。
エプスタイン事件の詳細については、Netflixのドキュメンタリー『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』があります。1話約1時間で全4話です。この作品を視聴し、日本との関係も含めて事件について改めて考えてみたいと思います。
参照:《エプスタイン事件とは何なのか?》「1日に3度の快感を」“島”で少女を囲って性的虐待…突然死

