「ビッグ・フェイク」 イタリア 2026年製作 原題:Il falsario/The Big Fake 2026年製作

Netflixで1月23日配信開始の映画『ビッグ・フェイク』は、美術界の光と影を描いたサスペンス作品です。実際に起きた美術品偽造事件を下敷きにしながら、観る者を引き込む緊張感のある物語が展開されます。

物語には、イタリアの極左テロ組織「赤い旅団」も深く関わっています。誘拐や殺人を繰り返し、アルド・モーロ元首相の誘拐・暗殺事件で世界に知られることとなった組織です。史実に基づく要素が随所に盛り込まれ、フィクションでありながら現実味のある重さを感じさせます。

● 俺らは大物になろうとしていた
舞台は1970年代のローマです。物語は、主人公トニがドゥケッサ湖のほとりでキャンバスを立て、油絵を描く場面から始まります。霧に包まれた山々を背景にした雄大な景色は息をのむほど美しく、「俺らは大物になろうとしていた」というトニの独白が、彼の野心を印象づけます。

将来はローマ一の画家になることを夢見るトニですが、現実は観光客向けの似顔絵描きとして生計を立てる日々です。そんなある日、美人画商ドナータと出会い、自作を見せます。しかし返ってきたのは、「この絵は売れない。今は象徴画や抽象画の時代で、あなたの具象画には需要がない」という冷酷な評価でした。

失意の中、トニはドナータにヌードモデルを頼み、その流れで二人は関係を持ちます。翌朝、立ち去ろうとしたドナータは一枚のベルニーニの肖像画に目を奪われます。トニ自身が描いたと知り、彼女は驚きます。
「完璧だわ。これをどこで?」
「俺が描いた。本当さ」

この出来事をきっかけに、トニは贋作が大きな金になると悟ります。画家として名を上げる夢を捨て、贋作で生きる道を選び、ドナータとは恋人関係になります。さらに、共にローマへ出てきた友人が「赤い旅団」に関わっていたことから、金庫破りなどの犯罪にも手を染めていきます。

精密に描く技術は、偽造パスポートや文書作成にも利用され、犯罪組織や政治グループからの依頼が舞い込みます。トニは贋作と偽造で贅沢な生活を送るようになりますが、その才能は次第に犯罪の道具として消費されていきます。

● 偽造師アントニオ・キキアレッリをモデル
トニは、万一に備えて自分の関わった出来事を手記にまとめ、友人である司祭の管理する金庫に預けます。もしもの時には、恋人ドナータに渡してほしいと託すのです。

芸術家でありながらテロや犯罪に関わるトニの危うさは、観る者を終始はらはらさせます。やがて裏社会の報いは避けられず、突然襲われて手を潰されるという、痛ましい場面も描かれます。

本作は、1970年代から80年代に実在した偽造師アントニオ・キキアレッリをモデルにしているとされています。社会を騒がせた複数の事件との関係も示唆され、実話に基づく重みが物語に深みを与えています。

結末の解釈にはやや曖昧さが残るものの、作品としての完成度は高く、モデルとなった事件をさらに知りたくなりました。Netflixで1月23日から配信されたばかりの新作ということもあり、詳細な考察記事がまだ少ないのは残念です。

印象的だったのは、トニが依頼を受け、画家ダヴィッドによるナポレオンが馬に乗っている絵「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」を描き上げる場面です。画集を手本にしながらも、圧倒的な迫力の絵で完成させた事に引き込まれました。贋作であっても、好きな絵が大作として飾られる喜びは理解できる気がします。

● 徳島と高知が所蔵する絵画の贋作疑惑
贋作問題は日本でも話題になりました。徳島県立近代美術館と高知県立美術館が所蔵する絵画に贋作疑惑が浮上し、ドイツ人画家ヴォルフガング・ベルトラッキが注目を集めた事件です。NHKで特集番組が放送されたことも記憶に残っています。

徳島県立近代美術館が1999年に6720万円で購入したジャン・メッツァンジェの「自転車乗り」と、高知県立美術館が1996年に1800万円で購入したハインリヒ・カンペンドンクの「少女と白鳥」が問題となりました。

ベルトラッキは、1980年代にパリで描いた贋作の多くが、パリやロンドンのディーラーを経由して、バブル期の日本に大量に流れたと語っています。当時の業者が「日本人は何でも買う」と話していたという証言も印象的でした。

テレビで自身の贋作について淡々と語るベルトラッキの姿からは、罪の意識の薄さすら感じられ、強い違和感を覚えました。この人物もまた、映画やドラマの題材になりそうです。ぜひNetflixで映像化してほしいと思います。

参照:日本の美術館も被害か 300点のニセモノつくった「天才贋作師」の男が問う