「望郷と掟」 日本 1966年製作


野村芳太郎監督の「望郷と掟」は、密輸組織の罠にはまり服役した主人公が、出所後に仲間を集めて金塊強奪と復讐を企てる物語で、和製ギャング映画らしい暗黒街ドラマの趣があります。

● 脇を固める殿山泰司と渥美清
主人公は安藤昇が演じています。彼が元安藤組組長から役者へ転身したのは39歳のときで、かなり遅いスタートでした。役者2年目で出演した4作目が本作にあたります。演技にはどこか一本調子なところがあり、セリフもやや棒読み気味で素人っぽさが残っています。


しかし、殿山泰司や渥美清といった個性派俳優が作品に深みを添えています。

また、多くがロケーション撮影で行われたため、セットとは違う生々しい空気が漂い、モノクロ映像の一場面が一枚の絵のように感じられる瞬間もあります。

竹脇無我は安藤昇と共に金塊強奪計画に加わる役を演じています。彼を恋愛ドラマで見ることが多かったので、犯罪に関わる役どころは新鮮でした。竹脇が思いを寄せる女性を中村晃子が演じており、彼女も初々しく独特の輝きを放っていました。

ところで、映画の中に「三国人」という言葉が出てきて、久しぶりに耳にした気がしました。今ではほとんど使われなくなった言葉ではないでしょうか。

「三国人」は戦後の一時期、在日韓国・朝鮮人や台湾出身の中国人らを指す差別的な表現とされています。

「三国人」といえば、2000年4月の出来事を思い出します。

陸上自衛隊の行事で石原慎太郎東京都知事が「東京では不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している」と発言し、問題視され批判を浴びました。後に「朝鮮や韓国の人が不安や不愉快な思いをしているのはお気の毒だし、遺憾だ。もう三国人という言葉は使わない」と語ったとされています。

● 安藤昇を観たくて映画館へ
本作は安藤昇が主演のため、彼のファンであれば、ぼくとは違う熱量で楽しめるのだと思います。

若い頃、「安藤昇に憧れて法政に入りました」と語っていた作家・山平重樹氏は、他のヤクザ映画スターにはない、本物だけが持つ風格や匂いに強く惹かれたといいます。

彼は安藤昇見たさに映画館へ通ったことを、次のように振り返っています。


初めて我が田舎町の映画館で、その存在を知ったのは高校生の時に観た東映の「組織暴力 兄弟盃」であったか、ゲスト出演した鶴田浩二の「日本暴力団 組長」であったか、もう記憶が定かでないが、まず、その三白眼に射すくめられた。何より頰にギラッと走る刀傷といい、その迫力、凄みといったらなかった。

あの眼に睨まれたら、即座に謝るしかないだろうななどとショーもないことを考えながら、ビデオなどなかった時代、安藤昇観たさ、東映任俠映画観たさに、田舎の古びた二番館にせっせと通いつめたものだった。


ところで、安藤昇は本作で主題歌も歌っています。歌手活動があったことを知らなかったので驚きました。元ヤクザ、俳優、小説家、歌手、プロデューサーと、多才な人物であることがウィキペディアにも記されています。最近、彼について書かれた本を読んでみたいと思うようになりました。

参照:「あの眼に睨まれたら、即座に謝るしかない」“伝説のヤクザ”安藤昇