「愛のメモリー」 1976年製作 アメリカ 原題:Obsession

ブライアン・デ・パルマ監督の『愛のメモリー』は、ヒッチコック監督の『めまい』へのオマージュとして知られる心理サスペンス映画です。

単なる恋愛ドラマに終わらない、非道徳的なテーマや予想を裏切る結末が、観る人を引き込みます。ぼくは『めまい』よりも、本作『愛のメモリー』の方が好きです。

不動産業を営むマイケルの家では、結婚記念日のパーティーが行われていました。パーティーが終わったその夜、2階から娘エミーの声がします。妻のエリザベスが上がっていきますが、しばらく経っても戻ってきません。不思議に思ったマイケルが娘の部屋に行くと、1枚の紙が残されていました。「50万ドル渡せば彼女たちを返してやる」。

しかし、そのとき妻エリザベスと娘エミーを誘拐事件で失ってしまいます。

やがて十数年の時が過ぎ、仕事でフィレンツェを訪れたマイケルは、亡き妻に生き写しの女性サンドラ(ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)と出会います。恋に落ちた二人は婚約を果たしますが、誘拐事件が再び繰り返されてしまいます。

『愛のメモリー』は二度目の視聴になりますが、改めて初期のデ・パルマ作品は傑作であることを再認識しました。映画を見ることの楽しみが、心に突き刺さってきました。

デ・パルマの作品では、『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)、『キャリー』(1976)、『殺しのドレス』(1980)、『ボディ・ダブル』(1984)などに、ぼくは夢中になったものです。

本作では、亡き妻に生き写しの女性サンドラを演じたジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドが、リスのような軽やかさでボーイッシュな魅力を放ち、見ていて明るい気持ちになりました。その彼女を言葉少なく、暖かくじっと見つめる主人公マイケルの眼差しも心に残ります。

主人公の友人役を演じたジョン・リスゴーは、トーンが高めで耳に残る声を持っています。そして表情が時に怖いため、サスペンス映画に適しています。一度見たら忘れられない俳優で、デ・パルマ作品『レイジング・ケイン』をはじめ、何作かに出演しています。デ・パルマお気に入りの俳優なのでしょう。

最後の謎が解明した瞬間のクライマックス、マイケルとサンドラの周りを360度ぐるぐると回るカメラワークも、おなじみのデ・パルマ映像で懐かしく思いました。

ところで、デ・パルマ監督の『愛のメモリー』がヒッチコック監督の『めまい』へのオマージュといわれるのは、どの部分なのでしょうか。

『めまい』では、主人公スコティが亡くなった女性マデリンに執着し、彼女に瓜二つの女性ジュディと出会います。

『愛のメモリー』の主人公も同様に、亡くした妻に瓜二つの女性と出会い、彼女を亡き妻に作り変えようとします。

この「死んだ女性の幻影を追い、生きている別の女性をその姿に変えようとする」という物語の中心的なテーマとプロットが、最大のオマージュだといわれています。

また、両作品ともバーナード・ハーマンが音楽を担当しており、『愛のメモリー』の主題歌も彼の旋律に基づいています。この特徴的で情感豊かな音楽が、映画の「偏執的な愛(オブセッション)」というテーマを強調しています。

最近はデ・パルマの新作映画の話を聞かないのが残念です。彼は85歳になりますが、クリント・イーストウッド監督のように、まだまだ精力的に作品を創ってほしいものです。