「夜明けまでバス停で」 2022年製作 日本

高橋伴明(たかはし ばんめい)監督の『夜明けまでバス停で』を観ました。この作品は、2020年に東京都渋谷区幡ヶ谷で実際に起きた、ホームレス女性殺害事件に着想を得て制作された映画です。

コロナ禍の中で、職と住まいの両方を失い、バス停で寝泊まりするようになった主人公・三知子(板谷由夏)の姿が、まるでドキュメンタリーのような生々しさで描かれています。社会的孤立と貧困の現実を、淡々と、しかし深く掘り下げた社会派ドラマです。

「真面目に生きてきたのに、なぜこうなったのか」――。
そんな問いを抱きながら、誰にも救われない現実に怒りと戸惑いを覚える三知子の姿が、胸に迫ります。

物語の途中で、三知子はホームレスの女性を通して、「バクダン」(柄本明)と呼ばれる老人と出会います。彼はかつて全共闘の闘士で、交番を爆破した過去を持つ男。

二人は奇妙な共鳴を見せながら、やがて爆弾作りに没頭していきます――その展開にはどこか惹かれるものがあります。1979年の沢田研二主演作『太陽を盗んだ男』を思い出しました。

主人公を演じた板谷由夏さんは、役にリアリティを出すために実際に居酒屋でアルバイトをしたそうです。

初日の舞台あいさつで、司会者から「有名女優が居酒屋で働いていたら騒ぎになったのでは?」と問われると、彼女は笑いながら「誰にも気づかれませんでした」と答えていました。さらに「監督からも『誰にも気づかれないなんて、寂しいな』って言われたんです」と明るく話していたのが印象的でした。

本作は、2022年度キネマ旬報ベスト・テンにおいて日本映画第3位、さらに日本映画監督賞も受賞しています。

ただ、個人的には少し残念に感じた点もありました。ホームレスを題材にしているにもかかわらず、出演者の服装や顔、住まいの描写がどこか整いすぎていて、「綺麗すぎる」と感じてしまったのです。

リアルさを追求すれば観客の拒否感を招く恐れがある――そうした配慮があったのかもしれませんが、もう一歩踏み込んだリアリティがほしかった気がします。

それでも、久しぶりに下元史朗さんの姿を見られたのは嬉しかったです。かつて高橋伴明監督がピンク映画を多く撮っていた時代、下元さんは常連俳優として何度も出演していました。その頃、彼と裸の女性たちの絡みを何度も見た記憶があります。

今や老人役で再び伴明作品に登場している――それがどこか懐かしく、時の流れを感じさせました。

高橋伴明監督は、1970年代のピンク映画の発展期を支えた重要な監督のひとりです。そんな彼が、今なお社会の現実を鋭く描き続けていることに、改めて深い敬意を覚えました。


参照:板谷由夏『夜明けまでバス停で』役づくりでアルバイトするも