「ワン・バトル・アフター・アナザー」2025年製作 アメリカ 原題:One Battle After Another
「ワン・バトル・アフター・アナザー」は、かつての革命家だった冴えない男が、愛するひとり娘を狙われたことをきっかけに、次々と現れる刺客たちとの死闘へと巻き込まれていく――そんな追走劇です。
ハードで迫力あるアクションの連続。その裏には、父と娘のねじれた絆が描かれ、さらに現代アメリカ社会を照射する風刺的な要素も織り込まれています。特にカーチェイスや爆発が連発するクライマックスのアクションシーンは、まさに手に汗握る見ごたえがありました。
怒涛のように展開する前半は、テンポの良さに加え、時に下ネタまじりの軽妙さもあって、引き込まれました。拘留中の移民を収容所から脱獄させるという計画を、極左グループの黒人女性カリスマ革命家が引っ張っていく姿は圧巻です。トランプ政権による移民政策がまだ現実味を帯びる前に撮影されていることを思うと、この作品の先見性には驚かされます。
それでも、観始めの頃は違和感の連続でした。
たとえば、敵の護衛に向かって「フェラをするように膝まづけ!」と命じる場面――いや、“そこはそういう膝のつき方ではないだろう”とツッコミたくなります。
さらに、ふんぞり返って寝ていた右翼軍人の指揮官に「立て!」と命じ、立ち上がった途端、「そうじゃない、“アソコ”を立てろ!」と自慰を強要する――このあたりの意味不明な強引さも、ある種の異様なユーモアとして機能していました。
「爆発と同時にSEXをしよう!」というトリッキーな提案まで飛び出し、混沌の中にも妙な一貫性を感じさせます。
ただ、後半に入ると一転してテンションが落ちてしまうのが惜しいところです。娘のキャラクターがあまりに“普通”で、前半の狂気じみた勢いに追いつけていません。
あの肉食系の母親と、変態じみた元気じいちゃんの血を引くなら、もっと非常識で突き抜けた一面がほしかった。空手の型のシーンも登場しますが、型どおりで切れ味に欠け、少しぬるく感じました。
それでも、起伏の激しい高原の弓なり道路を舞台にしたカーチェイスは圧巻です。人の気配がまるでない風景の中で、車がうねりながら駆け抜けていく。その映像美は、物語の流れを一瞬忘れさせるほどでした。
ところで、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公よりも、妻役の黒人女優テヤナ・テイラーの存在感が圧倒的で、画面の中で彼がやや霞んで見えるほどでした。
ディカプリオは、役柄として“こきたない中年男”を演じながらも、どこか哀愁を漂わせています。ふと「タイタニック」(1997)の頃の彼を思い出し、あの輝きと今の陰りを思わず重ねてしまいました。
次はぜひ、再びスターの光を放つディカプリオに出会いたい――そう願わずにはいられません。
