「赤ちょうちん」 1974年製作 日本
藤田敏八監督の「赤ちょうちん」を見た。上映当時に見たので内容は忘れてしまったが、秋吉久美子の小悪魔的な存在感が光っていた映画だということは記憶に残っていた。見るのは2回目だ。
同棲生活を始めた22歳の政行(高岡健二)と17歳の幸枝(秋吉久美子)が、さまざまな障害にぶつかりながら引越しを重ねて東京の町を転々としていく物語。
脚本は中島丈博と桃井章で、桃井章は女優・桃井かおるの兄。また当作品は、キネマ旬報ベストテン9位に入っている。
かぐや姫(南こうせつ)の「赤ちょうちん」の曲が流れる。歌詞の中にある
貨物列車が 通ると揺れた
ふたりに似合いの 部屋でした
に準じたアパートの部屋から物語は始まる。
映画の内容とリンクしているかのように、歌詞の
生きていることは ただそれだけで
哀しいことだと 知りました
というフレーズが染みてくる。
前半にでてくる長門裕之演じる、中年男が不思議な味わいを出していた。政行と幸恵が二人で銭湯に行ってアパートに帰ると、部屋に見知らぬ中年男が週刊誌を読んで寝そべっている。男は起き上がって、
「おじゃましてまーす。いや、懐かしくってね。この部屋が。前に住んでいたんですよ。ちょうど前を通りかかったもんだからね」
そして「お近づきのしるしに」と、いきなり自分の分と二人に寿司弁当を与える。
「奥さん、すみませんがお茶をいただけませんか」と、催促。
中年男は先にムシャムシャ食べ始め、いきなりトイレに駆け込みゲーゲー吐き出す。
「奥さん!その寿司、食っちゃいけませんよ。その寿司、腐ってますからね」
そのまま部屋に倒れ込んで寝てしまう。あまりの変な展開に思わず笑ってしまった。そして、中年男はそのまま二人のアパートに居座ってしまう。
数日後、海辺にその居座った中年男を含めて遊びに行ったときの事。幸枝に中年男は「あんた優しいね。あなたにはお礼さしてもらいますよ」と感謝した後で、自分はがんで半年後に死ぬことがわかっていると、伝える。
「些少ながら1500万円、あなたにさしあげる。ぼくが自分に掛け続けた保険です。受取人をあなたに変更しておきます」と幸枝に説明する。「但しだ!」中年男は語気を強める。「掛け金を先月以降、払っていない。わずか月3千円、払ってくれますね」
なかなかうまい騙し方ではないだろうか。自分が死んだ後の保険金を渡すとみせかける偽の書類を作成して、その代わりに自分の要求を相手にのませる。「赤ちょうちん」は、詐欺の話がメインではないのだが、そこの部分をもう少し練って話を膨らませることもできたのではないか。
物語の中には5回の引越しがでてくるが、ぼくも故郷の青森を出てから今まで8回の引越しをして、また青森に戻ったことになる。引越しした数日は、何も特別なことがなくても新鮮な気持ちになって、楽しかった記憶がある。そんな事を映画を見て、ふと思い出した。
