自殺と処理されそうな踏切事故を、防犯カメラに写っていた映像により違和感を覚えて、逮捕にこぎつけた。1年間、捜査して逮捕に至ったという、その警察の執念はすごい。警察が事件として扱っていなかったら、闇に埋もれていただろう。

● 川は嫌だけど電車なら
2023年12月、東京・板橋区にある東武東上線の踏切で事件は起きた。高野修さん(当時56)は踏切に立ち入り、電車にひかれて死亡した。

警視庁の捜査関係者が明かす。

「被害者の死因は多発性外傷。事故発生の時刻、自分の足で歩いて踏切をくぐり、線路内に立ち入っていたため、当初は自殺と思われた。ところが、現場周辺の防犯カメラを確認していくと、直前に被害者を降ろし、跳ねられた後に走り去った不審車両が映っていたことが分かり、捜査を開始。浮上したのが、エムエー建装社の4人だった」

1年後の2024年12月8日。警視庁は東京都小平市の塗装業「エムエー建装」社長の佐々木学(38)、島畑明仁(34)、野崎俊太(39)、岩出篤哉(30)ら4容疑者を、殺人と監禁の容疑で逮捕した。

事件の当日、4人は、会社の同僚の高野さんを暴行し車に監禁、その後、島畑容疑者と野崎容疑者が、高野さんを川に飛び込ませる目的で橋に向かった。しかし、高野さんが川に飛び込むことを拒否したため、2人は高野さんを車に乗せたまま、橋から直線で4kmほど離れた現場の踏切へ移動した。この移動中に、野崎容疑者が「川は嫌だけど電車なら飛び込めるって」といった趣旨の発言をしたことがスマートフォンに残っていたという。

また、事件直前の現場近くの防犯カメラに映像が記録されていた。

踏切横の道に車が停車しライトを消した。しばらくすると、踏切付近で人が動いているように見える。この数十秒後にやってきた電車が踏切を越えて停車した。高野さんは、この列車にはねられ亡くなった。

近隣住民:(事故当時の状況は)ドーンというような音がした。すごい音だからすぐわかる。心肺蘇生したけど、ちょっとやっただけでやめちゃったね。

● できなかったら死にます
犠牲となった高野さんは、北海道函館市出身。地元の公立高校を中退後、塗装会社などで働き、20代半ばで上京した。日雇い労働を含め、土建業などを転々とし、塗装業を営む佐々木容疑者のもとに流れ着いたのは、約10年前のことだ。

「被疑者らは任意の聴取で、高野さんについて『仕事が遅いんですよ』といい、暴行については『トロいので、教育の一環だった』と釈明。一方で、被害者は、『約束したことは守ります。できなかったら死にます』といった趣旨の誓約もさせられていたようだ」(捜査関係者)

 

誓約書は携帯電話で撮影され、その画像が佐々木容疑者らのLINEグループで共有されていた。生前の高野さんが受けてきた仕打ちは、苛烈を極めた。

「被疑者らのスマホを解析した結果、高野さんに危ないプロレス技をかけたり、火傷を負わせたりするなどの暴行動画や写真が複数残っており、それらがグループLINEで共有されていた。被害者が負傷した患部を写した生々しい画像も残っていた。高野さんは医療機関を受診した際に、『自分で怪我をした』と説明し、被害を訴えていなかった。虐待は徐々にエスカレートし、被害者の肛門に棒を突っ込むなど、強制わいせつに相当する悪質な行為もあった」(同前)

高野さんは殺害される直前、給料が支払われず、食べ物だけを支給されるケースもあったという。また、容疑者4人が「高野さんが邪魔だ」という趣旨のやり取りをしていたことも新たに分かった。

別の捜査関係者が語る。

「被害者の両親はすでに他界しており、結婚歴もなし。遠方に一人きょうだいがいるようだが、身近に相談相手もおらず、寄る辺ない境遇だった。板橋区にあるエムエー建装が借り上げたアパートに住んでいたが、職場では奴隷のような扱いを受け、給料もろくに支払われず、住まいと食事を管理されたうえ、暴力支配によってマインドコントロールされたような状態になっていた」

● 熱心に野球指導している
佐々木容疑者は2013年ごろにエムエー建装を開業。東京都小平市の野球チームのスポンサーを務め、社員が選手として地元の大会に出場することもあった。

佐々木容疑者について、知人の30代女性は「普通のお父さんに見えた。やんちゃそうな見た目だが、あいさつも返してくれるし、悪いイメージはなかった」と語った。家の前で子供たちとキャッチボールをしたり、素振りをしたりしていたという。

また島畑容疑者は近隣住民によると、会社で被害者・高野さんの指導担当だった妻、子供2人と4人暮らしだった。1カ月ほど前にすれ違ったという男性は「あいさつをしたら返してくれた」と話した。

この事件に関する記事を読んで思うのは人間の支配力の怖さだ。家庭においては普通の人に見えて、ある隔離された空間では、自分より劣る人、もしくは会社での位置が自分より下の人への暴言や暴力を振るうというのは怖い。相手が抵抗しないことをいいことに、行為はエスカレートしていったのか。弱者を集団でいたぶることの、自分は被害者ではない事の連帯感、もしくは暴力行為から感じる快感など、人間性の問題も感じさせる事件だ。

参照:「次にまた迷惑をかけたら死にます、と誓約を」“板橋踏切自殺強要事件”プロレス技、火傷、肛門に棒…4人の容疑者による悪魔の所業
        板橋区・自殺強要殺人事件 「約束守れなければ死にます」と誓約書… グループで共有も
        「普通のお父さんに見えた」 逮捕の社長に近隣住民―踏切死亡事件