「アイ・アム・ア・キラー~殺人鬼の独白~」公開日:2018年6月19日 イギリス
死刑囚・無期囚の男がカメラを前にして、自分の犯罪を語るというドキュメンタリー動画は、日本では考えられない作品だ。
「アイ・アム・ア・キラー~殺人鬼の独白~」というNetflixの犯罪ドキュメンタリーでは、獄中にいる犯罪者がカメラを前にして自分の人生と事件当時の心境を語る。
今回、見たのはシーズン4の「ブギーマン」という5話目の作品。
● 刑務所の中でも危険人物
なぜ、その作品を選択したかというと、試しに数分間観た殺人犯のゲイリー・ブラックの姿がやけに心に残っていたから。まるで映画のワンシーンのように、身動きできないように鎖でがんじがらめにされて画面に出ていた。年老いた彼の表情に人の心を圧迫させる暗い重苦しい力を感じた。
彼は無期懲役を宣告された後にも凶暴性を発揮し、刑務所の中でも危険人物だった。1993年彼は別の囚人を刃物で刺した。1999年看守に暴行を加えたという記録が残っている。その結果、看守の左目を失明させた。また、有色人種の囚人が自分の周りに収容されると、徹底的に苦しめたという。
ゲイリー・ブラックは「ポン引き」として生計をたてていた。生まれはアメリカ・ミズーリ州で小さな農場で育った。5歳の時に母親と父親、祖母が車の事故で亡くなった後にブラック家の養子となった。母親がアル中で手がつけられず、17歳になる前に家を出た。そしてレディングス・ミル・インに住み始める。1回は普通のバーだが、その裏では8人の女性が売春婦として働いていた。17歳の誕生日を迎えるころには6人の売春婦を取りまとめるポン引きとなった。
1998年10月、ゲイリー・ブラックはタミーという女性と市街地を車で走っていた。以下、殺人に至った経緯に関するゲイリーの話。
タミーがタバコを買うためにコンビニに寄った。タミーが何かに腹を立てていると思ったゲイリーは、車の窓を下げた。「黒人の男が体を押し付けてきた。股間をお尻に押し当てたの」タミーが告げた。さらに「振り向いて離れてと言うと・・・・・・ 手を掴まれカウンターに押し付けられた」ゲイリーは、黒人の男は「タミーが売春婦だと気づき自分の好きにしようとした」と考えた。
許されない行為と考えたゲイリーは、新車のトラックに乗って走り去った黒人を追った。数秒で追いつき、交差点の停止線で隣に車を止めた。ゲイリーも黒人の男も車から降りた。ゲイリーは「ナイフを肩越しに振り首の側面を刺した」と語る。
● KKKに囲まれて育った
ナイフは男性の動脈を切断した。被害者の男性は28歳のジェイソン・ジョンソン。事件がなければ、結婚していたはずの恋人もいた。事件後、病院へ救急搬送された。生命維持装置に繋がれた。
タミーに「何があった」と聞かれ「何でもない。黒人野郎が死んだだけだ」と、ゲイリーは語った。
その時のコンビニの防犯カメラの映像を作品内で確認できたが、ゲイリーが言っていたジェイソンが女性に体を押し付ける行為は見当たらない。ゲイリーは刺殺に関して正当防衛だったと主張するが、それを裏付ける証拠はない。また目撃者たちはジェイソンが車内で刺されたと証言。
ゲイリー・ブラックの犯行はジェイソン・ジョンソンが黒人であったからという理由が大きい。動画の最後にこのように語っている。「俺は人種差別者だ。KKKに囲まれて育った」
動画ではゲイリー・ブラックのインタビューの合間に差し込まれる、内容と関連した景色などの映像があって美しい。また殺されたジェイソン・ジョンソンの両親も出て事件に関し語っているが、いかに彼が家族に愛されていたかが伝わってくる。
彼の母親は、家族とも相談の結果、息子の生命維持装置を外すことを選択した。「植物状態でいたって自分が誰でどこにいるかも分からない。それは息子じゃない。息子は快活で聡明で愛すべき人間だった」その理不尽な悲劇の中でも自分の使命を見出していく。母親は、独自に祈りの会を開いている。自分と似た経験をした人たちを助けたいとの事。現時点で67人が参加している。
一方的な犯罪者の主張に関し、事件を考え直すきっかけを生み出す作品だ。また、刑務所が犯罪者を隔離するだけで、犯罪者自身の犯行に対する反省を何も生み出していない一つの実例も知ることができた。
