「父が有罪にした殺人犯 / THE MURDERS AT STARVED ROCK」2021年製作 アメリカ
原題:The Murders at Starved Rock

 

1960年、調理場担当で働いていた男が捕まった。容疑はアメリカ合衆国のイリノイ州にあるスターブドロック州立公園で中年女性3人を殺害した疑い。友人同士の女性3人は殴り殺された後に洞窟に遺棄された。



男はチェスター・ウィーガーと言い、2人の幼い子供の父親だった。写真を見るとどこかニヒルな魅力が感じられる。殺人犯という怖さも効果的に働いて、まるでアイドルでもあるかのように当時は人気があったという。

殺された女性は手を白いヒモで縛られていて、男が働くロッジの調理場に合ったヒモと一致した。また、彼のジャケットにも血液が飛び散っていた。

しかしチェスター・ウィーガーは、半世紀もの間、無罪を主張し続け仮釈放を求めた。

彼を終身刑にした検察官の息子・デビッド・ラクーリアは、ウィーガーに興味を持ち真実を解き明かそうと、動き出す。その意欲的な映像がU-NEXTの動画配信で見た「父が有罪にした殺人犯 / THE MURDERS AT STARVED ROCK」というドキュメント。

彼の父は息子のラクーリアに問う。
「こんなことをしている目的は何だ?なぜドキュメンタリーを撮ってる?小さいころから散々言ってきたはずだぞ。あの男は間違いなく犯人だ」

● 刑務所で死んでほしくありません
提示された証拠から、チェスター・ウィーガーが犯人に思えるのだが、その証拠は警察が捏造した事が疑われていく。一人で三人もの女性を殺害したことにも疑問がもたれる。彼は無実なのではないかという事に気がつく。

しかし、いくら仮釈放を求めても認められず、60年経過してしまう。

2019年11月に第24回、仮釈放聴聞(ちょうもん)会が開かれる。

被害者の孫娘、ダイアン・オティングは訴える。
「皆さん 2年前囚人審査委員会はウィーガーの姿勢を憂慮しました。彼に反省の表明を繰り返し促しても応じないからです。それで彼を出所させては危険だと判断しました。2年前のことです。では今はどうでしょう?憂慮は消えたたのでしょうか?彼は反省したのでしょうか?いいえ。この40年私たちは風評に耐えてきました。家族はマフィアの一員だと後ろ指をさされ・・・・祖父は事件の黒幕だと言われました。そのうえ(殺害された)祖母たちは浮気相手を探していたと中傷されたのです」

一方、ウィーガー側からは彼の妹が言葉は少ないが涙ながらに発言。
「私はチェスターより2歳年下の妹で兄は一番近い肉親です。ずっと無実を訴えてきました。もう残り少ない人生です。このまま刑務所で死んでほしくありません。」



賛成が9名、反対が4名にてようやく仮釈放が承認された。彼は2020年2月に自由に外を歩く事ができるようになった。逮捕されたときに若かった彼も、足元がおぼつかないような老いた姿に変わっている。

● 泣き叫ぶ妹の声が
ようやく家族の元に帰ってきたウィーガーは、彼の妹や子供との涙の対面の映像と共に、もう一つの彼の語られていなかった過去の告白が映し出される。
 
ウィーガーは8歳のときに妹のエルビータが近所の男2人に犯されるのを無理やり見せられた。場所は父のニワトリ小屋の中だった。妹はインタビューで、「兄が責められないように家族には黙っていた」と語っている。細かな状況は語られないのだが、ウィーガーは「あの男達を殺してやりたいと思いました。絶対に許せません」と、その時の心情を語る。

そして彼はその後、悪夢を見るようになる。そのたびに泣き叫ぶ妹の声が聞こえる。

そして彼もまた、12歳のときにマシーセン公園で8歳の少女を強姦したことがある過去を暴かれる。そのため、事件当初から彼は有力な容疑者だった。

ウィーガーは、この暴行に関して「乱暴された少女を手当てして家に送りました。警察は私を釈放しました」と答える。

しかし、当時の事件の詳細を確認することにより、事件の真実を追っていたデビッド・ラクーリアは、彼に対する見方が変わったという。彼はこの件の報告書を確認する。

 

「8歳の小さな女の子がウィーガーの妹マリ―と学校から帰ってきました。途中でマリーと別れました。するとウィーガーは少女を連れて乱暴しました。ズボンには少女の血が付きました。それに気づいた両親に対して彼はヘビを殺したのだと言いました。しかし警察に取り調べられ自供しました。彼には性的な深い闇がありました」

ラクーリアは、「これまで見せてきた人間性に疑問が出てきました。しかし殺人まで犯すでしょうか」と、問う。

● 苦痛と苦悩に満ちている
まずは人間の多面性に驚く。自分が無力に感じた屈辱の想いを別の形で他の女性にも同じ性暴力を与えてしまうという行動。

そして彼が殺人犯として刑務所にいるという影響からか、ウィーガーの息子・ジョニー・ウィーガーが何度か犯罪行為に走っている。倒錯した性的行動を取る傾向があった。刑務所で親子対面もしている。

「父が有罪判決を受けたときにまだ私は生後四ヵ月でした。ずっと誰にもなじめませんでした。髪を腰まで伸ばしよく周囲に当たり散らしたものです。最初の強盗で捕まり父と四ヵ月間服役しました。そのときより長く父と過ごしたことはありません。」

「裁判の際にこんな声をよく掛けられました。”お前も父親と同類だ”と。心に響きました。長い間ドラッグとアルコールにおぼれて私の体はボロボロの状態です。皆、私をバカにしますがそれは違います。父からの手紙です。”再び孤独の影が私の心に入り込んでくる。ここは人が作り出した地獄だ。苦痛と苦悩に満ちている。それでも記憶の中にはお前がいる。その記憶だけが生きる支えだ。30年の刑務所暮らしで心を失った今の私には・・・・もう昔の記憶しか残っていない。”この私に人を愛し思いやる気持ちを父は教えてくれました」

また事件も、色々な角度から光を当てることにより、犯人への想いも二転三転し、想像以上に奥行を持ったものとして実感させられる。通常の犯罪ドラマ以上に、ウィーガーを含め容疑者・被害者の家族や事件を追う者の物語を感じさせてしまうドキュメントであった。