舞妓ビジネス社長の宮本一希(37)が、女子大生の濱野日菜子さん(21)にタリウムを摂取させ殺害したとして逮捕されたのは3月3日。
● 無色無臭の劇物
タリウムの怖いのは水に溶けやすく、青酸カリとは違って無色無臭の重金属で、殺傷力が強いというところだ。成人の致死量はわずか1グラム程度だという。
犯罪ジャーナリスト小川泰平氏がタリウムに関して解説する。
「タリウムは劇物です。古くは脱毛用クリームや殺鼠剤にも使われていたようです。ただ脱毛用のクリームに関しては、1973年にWHOが使用禁止を呼びかけていて、殺鼠剤に関しては厚労省が毒劇物の一般消費者への販売自粛の通知もしています。
しかし、2005年に女子高校生が母親にタリウムを飲ませて殺人未遂容疑で逮捕されていたり、2015年に女子大学生がタリウムで友人を殺そうとして逮捕されたり、こういった事件は起きていたわけです。」
この事件に関して、前回は『週刊文春の記事では、タリウムを、どのようにしてイベント企画社長の宮本一希容疑者が手にいれたかと、なぜ立命館大学の濱野日菜子さんを殺害するに至ったかに関する事には何も書かれていない』と、述べたけれどタリウムを手に入れた事にかんするヒントになるような解説が、同様に小川泰平氏の記事にあった。
「2015年の女子大生の事件を取材したのですが、東京とか大阪とか都心部では薬局でも当時も販売されていませんでした。ただ地方に行くと、一部売られているところがあって、この女子大生は年齢をちょっとごまかして購入していたといったのがあった。」
「そういったことで事前に持っているもの、これって一気に使うものではないので、持っている者から譲り受ける、もしくは、あくまで私の勝手な推測なのですが、この宮本容疑者が賃貸業をやっていたというようなことで、ネズミの駆除とかのときに以前使っていたものがあったのか、以前使っている者から譲り受けたのか、そういった可能性も否定はできないのかなと思います。」
● 夜な夜な飲み歩いて散財を
宮本には、舞妓ビジネス社長とは別に、もう一つの顔があった。家業でもある不動産管理会社の代表だ。

「代々不動産で儲けてきた家、彼の父親も不動産会社を経営していました」(元役員の親族)京都市内には、宮本の会社が所有、あるいは売買した土地や建物がいくつも確認できる。
また、なぜ立命館大学の濱野日菜子さんを殺害するに至ったかに関しては、今週号の週刊文春3月23日号に彼の奥さんとの事件前後の様子が書かれていて、殺害の動機のヒントになるので、転記していきたい。
宮本には、名門小学校の同級生だった女性との離婚歴がある。そして2017年の夏に二度目の式を世界遺産の上賀茂神社で挙げる。娘が一人いる。
「今の奥さんは、一希くんが東京で会社勤めをしていた頃に知り合った埼玉出身の年下女性。お嬢さんを”お受験”で有名私立幼稚園に入れ、本人も時々白いベンツで送り迎えしていた」
彼の家庭に亀裂が入ったのは、濱野さんが殺害される直前、昨夏のことだった。妻の友人が振り返る。
「奥さんは、夜な夜な飲み歩いて散財を繰り返す夫の浮気を疑い、興信所に依頼したそうです。すると、浮気が判明。奥さんは子供を連れて別居しました」
事件後、当初は奥さんの犯行も疑われたが、早々に嫌疑は晴れた。濱野さんが自殺する理由もなく、残るのは宮本による他殺の線のみ。友人や取引先にも大阪府警の聞き込みが行われたが、本人はこう言っていた。
「一緒に飲んでいたバイトの女の子が、急に泡を吹いて倒れた。警察に疑われたけど大丈夫。その子の持病の喘息が原因だと思う」
並行して、宮本は家庭の修復に奔走していた。
「昨秋の事件後、夫が急に優しくなったといい、別居を続ける奥さんと仲を持ち直したのか、家庭で出かける姿が見かけられるようになった」(前出・妻の友人)
このことから推測すると、濱野日菜子さんと家庭を壊してまで付き合う意志はなく、奥さんと娘との関係を元に戻す意志のほうが強かったようだ。
そしてもう一点、週刊文春で書かれていたのは彼の”父親”と父親の妹、つまり”叔母”との関係が書かれている。
● 不動産売買を繰り返した痕跡
京都市内を流れる鴨川、その岬の佇む築20年あまりのマンションがある。4階の一室でうつ伏せで息絶えていた宮本の父親が見つかったのは、2020年6月30日のこと。
宮本家は50年以上前、一希容疑者の祖父の代から京都市内で不動産業を生業としてきた。地元の不動産関係者が証言する。
「宮本家ではおじいさんに力があり、不動産で儲けてきた一方で、お父さんは物言いが偉そうでわがままというか……。いろんな人が寄ってきて事業を始めては失敗する、という感じでした。彼の口から荒っぽい話が出てくるんです。“ヤクザの組長と飲んだ”とか。近寄りがたい人で、近所でも敬遠されていました」
その父親が孤独死した翌月の7月、今度は父親の妹が突如として倒れ、病院に搬送された。一命は取り止めたものの、大脳の機能の一部が失われた植物状態に陥ってしまう。
「彼女が倒れたと聞いたとき、大変なショックを受けました。ですが、それ以上調べようもなくて……」と語るのは叔母の元夫。2年ほど前に知人から、彼女が「意識不明になっていて、長い間、意識が戻らない。ずっと植物状態のようだ」との電話を受けたという。
「事情があって20年ほど前に別れました。しかし、彼女とは良好な関係で、離婚後もたまに会っていました。植物状態になったと聞いてから、調べても入院先まではわからなくて……。その時に知人から一希くんのお父さんも心筋梗塞で亡くなっていたと聞かされました。それからしばらくして彼女も倒れた、と」
彼女の友人が打ち明ける。
「最初の病院では、もうできる治療がなくなってしまい、一年以上して意識不明のまま別の病院に移りました。高血圧性脳症と診断されたそうです。今も人工呼吸器をつけたまま、もはや回復は見込めず、療養しているだけの状態です」
彼の叔母が再起不能となった後、家業の実権を握ったのが宮本だった。2020年10月、彼は父が孤独死した叔母名義のマンションの一室を、植物状態の叔母から購入。そして翌月、すぐに転売している。
さらに同年暮れ、宮本は叔母の名前を登記簿などに残したまま、自身が家業の不動産会社の代表取締役に就任。その後も不動産売買を繰り返した痕跡が残されている。
一方で、宮本には「美食家」の顔もあった。知人が明かす。
「彼にはグルメ仲間がたくさんいました。客単価3万円以上の高級店に週に何回も通い、京都以外にも出かけていた。お抱えのお店も複数あって一希くんは月に一回は貸切ると約束してキープしていた。予約が取りにくい店ばかりだったので、グルメ仲間に重宝されていました」
宮本は妹と二人きょうだいだった。結婚歴はあるものの子がいなかった叔母さんは、甥や姪を幼少期からとても可愛がっていた。
しかし、叔母さんの元夫は「彼女が健在だったなら、一希くんの散財は認めるはずはありません。きつく叱っていると思います」と、語る。
法科学研究センターの雨宮正欣(あめみや まさよし)所長が指摘する。
「(叔母が診断された)高血圧性脳症は病気ではなく症状。何かを原因としてそうなったと考えられますが、中枢神経を阻害する薬物全般にそうした症状を引き起こすことが可能です。タリウムもその一つです」
大阪府警関係者が語る。
「父親はともかく、叔母の異変は明らかに不自然。そのため、女子大生事件の捜査と並行し、時間をかけて慎重に宮本の捜査を続けてきた。次は叔母に対する殺人未遂容疑での再逮捕を視野に入れている」
宮本一希の廻りに不審な死や病気が渦巻いている。今回のタリウムの事件は、浮気をしていた濱野さんの死亡だけでは終わらない事件の闇の深さを思わせる。
参照:【解説】犯罪ジャーナリスト小川泰平氏 女子大学生タリウム殺害〝事件のスジ読み〟
週刊文春 3月23日号
京都タリウム事件、宮本容疑者の叔母に起こっていた異変
