「ベネデッタ」 2021年製作 フランス 原題:Benedetta

 

17世紀イタリア、ペシアの町。幼い頃から聖母マリアと対話し奇跡を起こすと言われたベネデッタ。彼女が民衆から聖女とあがめられ、やがて修道院長に任命され権力を得るが、元院長から同性愛で告発されてしまう。そんな彼女の数奇な運命をポール・ヴァーホーベン監督が描く。

というあらすじを聞くと、宗教と自己の権力と愛してくれる女性との葛藤というような、気分が重くなるような映画を想像してしまいがちだ。

でも、なんせポール・ヴァーホーベン監督の作品は、娯楽作品としてのサービスが一杯の人。ナチスにスパイとして飛び込んだ2006年の映画「ブラックブック」などは、エロくてグロくていつ彼女がスパイだとばれるのかと、はらはらさせて最高に面白い映画だった。

ということで、期待満々で1時間半かけて新宿武蔵野館まで、寒い風にも負けずに観に行った。

ぼくは、ベネデッタより彼女の愛人役の女性に注目した。ベネデッタと恋人同士になるバルトロメアを演じた野性味にあふれるダフネ・パタキアは、役にピッタリな女優だった。彼女のヌードも綺麗だし、薄暗い修道院でのベネデッタに接近していく様子は、魅せるものがあった。

ベネデッタは、キリストが自己のアイドルになっている人で、彼のイメージと一体化するために、自分の身体に傷をつけたのではないか。洗脳状態にある女性が、カリスマ性と共に周りを巻き込んで上へ上へと登りつめてしまった印象だ。

このベネデッタの信仰心と自分が重なるところがほとんどないし、ベネデッタ自身の苦悩に対して、応援したい気持ちにならないところが映画に今一つ乗れなかった理由かもしれない。

でも、ベネデッタがトグロを巻いた太いヘビ4,5匹に囲まれた場面。そのヘビの一匹がベネデッタの足の下から巻き付きながら、鎌首を持ち上げて彼女の身体を上がってくるシーンがあって、これは本当に怖かった。このヘビの怖さは最近見た映画「バビロン」のヘビより迫力があった。

また、聖母マリア像の大人のおもちゃ化も『キリスト教の信者に対して大丈夫?』と笑ってしまうが、ベネデッタとバルトロメアが並んで排泄するトイレの場面も忘れられない。トイレではしゃいで騒ぐバルトロメアに対して「静かにして!」と諭すベネデッタに、お尻で答える彼女。普通はこんな場面は映画のシーンに入れないだろう。

今回の映画のできはともかくとして、まさにポール・ヴァーホーベン監督は、84歳にして大家として老け込む様子はなく、まだまだ攻めていく勢いを感じさせる。