「羊たちの沈黙」 1991年製作 原題:The Silence of the Lambs

 

ジョナサン・デミ監督の「羊たちの沈黙」は、公開当時からずいぶん騒がれた映画だった。

でもぼくの見た感想は、9人の患者を惨殺して食べたという獄中の精神科医レクター博士が現実離れした人物に見えたし、ジョディ・フォスター演じるFBI訓練生クラリスも、FBIにしては、あまりに頼りなげで弱そうに見えた。

かよわい女性のFBIに、超人的でかつ連続殺人犯である獄中のレクター博士が絡んだ、もう一人の女性を狙う猟奇殺人犯を逮捕する映画。それぐらいの認識しかなかった。

YOUTUBEを見ていたら、「映画解説『羊たちの沈黙』か弱き子羊が絶望に立ち向かう物語」という映画の説明動画があって、ためしに聞いてみた。

最弱のFBIのクラリスと最強の刑務所の中にいて、知恵をさずけるレクター博士が協力して、猟奇殺人犯を捕まえる”友情の物語”と、説明していた。

「え?そんな映画だったけ?」
あまりに意外な指摘だったので、もう一度観ることにした。

最初見た当時は、ぼくは連続殺人に興味も薄かった。その頃よりは、連続殺人に関するノンフィクションや、プロファイリングの本などを興味を持って手に取り、映画でもその系統のものを何度か見てきたので、昔と違った感想が抱けるかもしれないと思った。

ジョディフォスターは、とても若くて、まだ新米のFBIというキャラをとてもうまく演じていた。彼女の緊張を我慢してレクター博士と対峙している様子のひりひりとした演技が、こちらに独特な緊張感を伝染させてくれた。彼女自身がこの役をやりたいと、監督に申し出ていたという。

レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスは名演技で、彼のまばたきしない眼だけが生きているかのような表情が頭の中に焼き付くくらいにうまかった。

第64回アカデミー賞でジョディ・フォスターが主演女優賞、アンソニー・ホプキンスが主演男優賞のW受賞している。

連続殺人犯の住む家の中には蛾が数匹、飛び回っている。この蛾の存在は物語に関連する事であるし、怪しげな薄暗い部屋の雰囲気も効果的だった。当時見ていたときよりも、色々な発見があり面白い映画としてみることができた。

クラリスが、猟奇殺人犯の家を訪ねてその部屋の中に入るところから、クライマックスにかけて物語が盛り上がっていくのだが、うちの奥さんはここで「怖すぎて見ていられない」と言って見るのをやめてしまった。これはまたもったいないことだ。

それはともかくとして、観終えてみると確かに女性を狙う猟奇殺人犯との闘いよりは、他人を信用しないレクター博士の心の中にいかにFBI訓練生クラリスが飛び込んでいくかという・・・・その双方の心の動きが、主題になっている映画だった。

新たな発見もあるので映画は見直してみるのも必要だと、今更ながらに強く思った。

参照:映画解説『羊たちの沈黙』か弱き子羊が絶望に立ち向かう物語