SNSを使って自殺志願者の若い女性を誘い出し、殺害した事件といえば5年前の2017年10月に発覚した白石隆浩の座間9人殺害事件を思い出す。
わずか2か月の間に、次々とSNSを通じて知り合った人たちをほぼ同じ手口で殺害していた。彼は逮捕当時27歳だった。
10月8日、白石隆浩のちょうど約2倍の年齢である無職・小野勇容疑者(53)が死体遺棄容疑で逮捕された。本人の札幌市内のアパートで女子大生の遺体が発見された。
週刊文春10月27日号での記事を元に、事件の内容を書いていきます。

● また踏み外しちまったな
小野が住む札幌市東区のアパートの一室で、小樽市の大学生・瀬川結菜さん(22)の遺体が発見されたのは8日午後2時頃。瀬川さんは3日午前中に家族に「友達と手稲で待ち合わせしているから出かけるね」と告げて家を出た後行方が分からなくなっており、7日に行方不明者届が出されていた。
10月3日の瀬川結菜さんの行動。
最寄りのJR小樽駅から函館本線に揺られて約30分。札幌市の手稲駅に着くと、駅前に待機していたレンタカーに乗り込んだ。ハンドルを握る男の右手の甲には、ラテン文字で(我思う故に我あり)という意味のタトゥーが彫られている。
親子ほど年齢の離れたその男は、6日前の9月27日にも札幌駅近くのカラオケボックスで会っていた、小野勇容疑者だった。

合流した二人は、札幌市内のカレー店で昼食を済ませた後、スーパーで買い物をし、小野の自宅アパートへ。築26年、家賃3万円弱の2階1DKの部屋。同日夜、小野は、フライパンでステーキ肉を焼く動画をツイッターで投稿しつ、こうつぶやいた。
《来客中につき、振る舞い肉》(10月3日)
その日を最後に、瀬川さんのスマホの電波は途絶えた。小野は以後、断続的にツイートを投下していく。
《ちゃんと供養する》(10月6日)
《人の道ってどこだっけ?また踏み外しちまったな》(10月7日)
瀬川さんが、小野のアパート室内で変わり果てた姿で発見されたのは10月8日のこと。
「瀬川さんが殺されたのは10月4日頃。死因は頸部を圧迫されたことによる窒息死でした。死体遺棄容疑で逮捕された小野は、瀬川さんから『殺してほしいと依頼された』と供述しています」(社会部記者)
● また小野のホラが始まった
逮捕時、無職だった小野は、札幌市手稲区で、元自衛官の次男として育った。小学校の卒業文集にはこうつづっている。
「ぼくは、将来、お父さんのいた、海上保安庁や、自衛官、警官などの、国家公務員になるのが夢だ」
地元の公立高校を卒業後は、念願だった陸上自衛隊に入隊。通信業務を担当した。「六年ほど在籍したが、金銭トラブルを起こして除隊した」(当時を知る自衛隊関係者)
では、その金銭トラブルとは何か。
小野容疑者と自衛隊員として苦楽を共にしたという、当時の同僚A氏は当時から小野容疑者が持っていた“強烈な空想癖“について証言した。
「空想癖がとにかく強い人でした。『仙台の訓練で1番になった』とか、『あそこのお店の店員の娘と付き合っているんだ』とか……数え上げればきりがないですね。調べればすぐにわかるし、先輩にも後輩にもバレているのに、全く気にしないんです。意思の疎通は確かにできるんですが、自分の世界に入り過ぎているというか。出来の良いロボットと会話をしている気分でした」
A氏によると性格は「オタクっぽい感じ」だったという。
内気で仲の良い同僚は少なく、週末に外出する時でも1人で飲みに行っていた。普段の生活態度については、遅刻や寝坊はなかったが、服のアイロンがけや靴磨きなどはせず、どこかだらしない雰囲気だったという。それは金銭面でも同様だった。
「自衛隊を辞めるきっかけとなったのが、借金でした。理由は、酒や女に湯水のように金を浪費したからです。休日に千歳界隈のキャバクラやスナック、フィリピンパブで飲んでは女性に貢いだり、すすきので金曜夜から月曜朝まで2泊3日で“遠征”し、ソープランドなどの風俗店にも頻繁に通ったようです。
千歳のキャバクラの娘たちを『彼女なんだ』と隊内で自慢気に話すこともありましたが、デートをする姿は一度も見たことがない。偶然小野さんが『彼女』と店にいる時に私が鉢合わせしたことがあるんです。席が近かったので、小野さんと『彼女』の話に聞き耳を立ててよくよく会話を聞いてみると、1回飲みにきたことがあるだけだとわかった。小野さんとその女性が一緒に飲んでいても付き合っている雰囲気は全くありませんでした。
こうした話が出るたび『また小野のホラが始まった』とみんな呆れてました」
そして小野容疑者の陸上自衛官時代は “失踪”という形で幕引きとなったという。
● 「心優しき死神」と自称
「消費者金融で総額300万円以上の借金をつくっていたことが、隊内にバレたんです。当時はまだ自衛隊も厳しかったですから、『全部返済するまで外出はさせない』と、返済計画書まで作らされていました。
それが苦しくなったのか、唯一、外出が許された正月かお盆に基地を出て、そのまま失踪してしまったのです。みんなで探しましたが、実家など足がつくところにはおらず見つからなかった。その後、ある日どこかから小野さんの身分証明書が郵送されてきて、正式に“除隊”となりました」
自衛隊を除隊になってからは、職を転々としながらも、34歳の時に結婚し、一人娘が誕生する。ところが婚姻関係は2年半ほどで破綻。妻は娘を連れて小野の元から離れていった。
独り身となり、タクシー運転手をしている時にうつ病を発症したという。
やがて小野は、”悩み垢界隈”と呼ばれる、心の病やメンタルの不調を投稿するツイッターアカウントを漁り始める。SNS上では「いっさ」と名乗り、「心優しき死神」と自称。悩みを抱える女性たちに次々とアプローチしていった。
そして小野の磁場に引き寄せられていった悩める女性の一人が殺害された瀬川さんだった。
小樽市で暮らしていた瀬川さんは、三人きょうだいの長女として生まれた。父はタクシー運転手、母は元美容師の専業主婦。下に妹と弟がいる。
● 人間関係がうまくいかなくなり、孤立
瀬川さんと親しかった同級生の保護者が回想する。
「小さい時から大人びた子でした。孤立していたわけではないのですが、一人で遊ぶのを好む感じで、自分の世界に入り込んでいる時は『今は来ないで』ってオーラを出していました」
地元の公立高校を卒業後は、将来の夢をかなえるべく、札幌市にある日本医療大学保健医療学部に進学。リハビリテーションを学び始める。
大学の友人が明かす。
「自分へのハードルを高く設定していて、成績は常に上位。学校の友人関係は良好だったし、彼氏もいました。でも、無理なく医療系の私学に通えるほど家計は楽ではなかったようで、札幌市内で夜のアルバイトをしていたんです」
昨年4月、4年生になると、卒業前の2月に行われる作業療法士の国家試験に向けて着々と対策に励み、「8割、9割の点数を取って合格する」と意気込みを見せていた。ところが・・・・・・
「大学で夜のアルバイトの件がバレたことなどをきっかけに、人間関係がうまくいかなくなり、孤立してしまったんです。その後は小樽のメイド喫茶でアルバイトをしていたようですが、昨年の秋ごろから授業にも出られなくなって、単位を落として留年してしまった。卒業すれば、いい病院に就職できる成績だったんですが・・・・・・」(大学の知人)
やがて瀬川さんはツイッターで、不安定な胸のうちを投稿し始める。今年の9月上旬。瀬川さんがツイートした「殺して」の言葉をみつけ、「いいね」を押して忍び寄ってきたのが小野勇だった。
小野は瀬川さんを殺害後、ツイッターで「三人目」とほのめかしていた。また過去に接触した女性にも『二人殺した』『遺体は薬品で溶かし、三日ほどかけて処分する』と、明かしている。
10月21日、小野は「ツイッターに複数人殺害したことをほのめかす投稿をしたが、うそだった」との趣旨の供述をしていることが捜査関係者への取材で分かった。もし本当に殺害していたら死刑の可能性もでてくるわけだから、あえて否定に入っている可能性もある。
また、瀬川さんを殺害後に「人の道ってどこだっけ?また踏み外しちまったな」の、ツイートは過去に同じようなことをしているからこその内容にも思えてくる。
北海道警はツイッターの解析を進め、真偽を慎重に調べるとのこと。
参照:「またあいつのホラが始まった…」“札幌女子大生遺体遺棄”容疑者(53)が「自衛隊時代」に積み重ねた“数多のウソと300万の借金”
週刊文春 10月27日号
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