億を超える事件で、ぼくが物心ついた頃に一番記憶に残っている事件は3億円事件だった。
1968年12月、白バイ警察官に変装した男が現金輸送車に「巣鴨警察署からの緊急連絡で、貴方の銀行の巣鴨支店長宅が爆破されました。この輸送車にもダイナマイトが仕掛けられているという連絡があったので、車の中を調べて下さい」と、嘘を言った後で白バイ警察官は現金輸送車の下周りを捜索し始め、「有ったぞ!ダイナマイトだ!爆発するぞ! 早く逃げろ!」と叫び、4人の銀行員を車から退避させて、白バイでそのままお金を奪って逃走した。この事件は未解決のまま時効を迎えた。
映画にも小説にもなって、もちろん事件を追ったノンフィクションも数冊出て世間が大騒ぎになった事件だ。

コロナの給付金をだまし取った今回の事件は、3億円事件の3倍の金額である約10億円だ。主犯格は谷口光弘容疑者(47)
● 第一生命の19億円と郵便局長の10億円
10億円の金額をだましとったとのことだから、金額的には”過去最大規模”と表現している記事にも、つい納得しがちだ。試しにネットで検索してみると過去には同じような金額の事件が、既に上がっていることがわかる。
一つは第一生命の元女性社員(89)が過去に19億円詐取した事件。元社員に現金を詐取されたとして顧客2人が、寄託金の返還と損害賠償を求める訴訟を起こしている。
1人は、元社員から母親の死亡保険金について「トップセールスマンの特別枠があり、高利で預かることができる」と持ち掛けられ、昨年3月に利息を年500万円として5000万円を預けたが、利息が支払われないとして返還を求めている。
もう1人は、元社員から「得意先1人だけに高利をつけられる。あなたを推薦したい」などと誘われ、支店長らが同席して借用証書を作成。1000万円を元社員名義の口座に入金したとして、同社と元社員に賠償を求めている。
もう一つ例をあげれば、長崎市の元郵便局長の男性(60代)が約25年にわたり、「高い金利が得られる」などと勧誘した事件もある。知人ら四十数人から郵便貯金などの名目で約10億円をだまし取った疑いがあるとして、日本郵便が調査した。
億を超える詐欺事件というのは知らないだけで、もしくは公にできないだけで、思ったより多くの案件が発生しているのかもしれない。
小説で言えば、公にできない事件というのでは松本清張の「黒革の手帖」という傑作小説もあった。巨額の金(7568万円)を横領し、銀座のクラブのママに転身した女性銀行員を、金が全てで動く人間の欲の世界を背景に描いた、サスペンスの長編。銀行が公にできないがゆえに、女性銀行員の完全犯罪に見えたかのような出だしで始まり、後半はママに転身した女性自身が騙されるというこれはとても面白い小説だった。
● 一山当てて一攫千金や
ところで、主犯格の谷口光弘容疑者(47)。うその名義人に対して、中小企業庁への対応方法をSNSで細かく指示していたことが分かったとのこと。
うその申請は約1800件にのぼっている。光弘がうその申請を行う名義人に対し、中小企業庁側から問い合わせがあった際の対応方法をSNSで細かく指示していたことが分かった。
「確定申告は自分でしましたか」と聞かれた場合には「はい」と答えるほか、「自宅が事務所と答えれば無難」などといった内容でマニュアル化されていた。
この主犯格・光弘の顔は、ぼくだけが思うのかもしれないが、鎌倉の大仏に鼻と口が似ているし、お笑いタレントのぐっさん(山口 智充)にも似ている。どこかで見たことのあるような顔で、実はもっと似ている人を見ているのかもしれない。みるたびに、どこかで見ている気がするのはなぜだろう・・・・・・。
話がちょっと脱線したので、元に戻すけれど、家族ぐるみで詐欺事件を光弘は起こしている。「一山当てて一攫千金や」それが、彼の口癖だったという。かつては高級外車を乗り回した実業家。
5月30日、警視庁は光弘の元妻で会社役員の梨恵(45)、長男の大祈(だいき)(22)、次男のA(21)の3容疑者を詐欺容疑で逮捕した。
「主犯の光弘は2020年10月にインドネシアへ出国し、今も行方を暗ましています。梨恵とは今年1月に離婚していますが、犯行当時は夫婦で、Aはその時19歳でした」(社会部記者)
『本人はちゃっかり一人で、インドネシアで逃亡中とのことだから、家族は捨て駒として利用されただけなのかもしれない。普通であれば、家族だけ残して自分だけ逃げまわることはしないであろうに』と、思ったのだが日本に本人がすぐに帰れないのはコロナのせいということもあるようだ。
● 「不法滞在」が逮捕につながる
逃げ得だけは阻止してもらいたいものだが、元刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏によると、彼を捕まえるのは二つのケースが考えられると、示唆する。
「インドネシアは現在、コロナ禍でビザ無し渡航はできない。光弘容疑者はなにがしかのビザは持っているとは思いますが、いずれ、その期限が切れて不法滞在になるか、既に不法滞在中かもしれません」と指摘した。
この「不法滞在」が逮捕につながるポイントになる。
小川氏は「日本の警察が現地に飛んでも、インドネシアで捜査はできないが、現地の警察にリクエストして、どこにいるかが分かれば、外務省を通じてパスポートの返還命令を出して、国にいること自体がダメだということにするか、30日間のビザならその期間が過ぎた時点で、不法滞在として身柄をインドネシア警察が拘束し、強制送還で日本に帰らせる。そして、航空機内で日本の領域に入った時点で逮捕状を執行するというパターンになると思います」と小川氏は解説した。
参照:家族で9億6000万円コロナ給付金詐欺、海外逃亡中の主犯格容疑者は逮捕されるか?小川泰平氏が解説
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