「放浪記」 日本 1962年
 

高峰秀子が、林ふみ子を演じた成瀬巳喜男(なるせ みきお)監督の「放浪記」を見た。

どこか世をすねたような、林ふみ子の語りが物語の所々に入る。男運がなくて貧乏で、物哀しくもあるが、それを突き抜けたあっけらかんとしている陽気さもあって、楽しく見ることができた。

そんな生活の中で林ふみ子は、文章を書き続け出版社に売り込み、世に出ていく。

林ふみ子と同棲しているときは、暴力を振るってしょうがない女のヒモのような宝田明・演じる文学者の福池が、最後に林ふみ子の「放浪記」出版記念パーティで彼女に送るお祝いの言葉は、彼自身の浮かばれない境遇の中での祝福であるだけにとても感動的であった。

文庫本で出ている林芙美子の「放浪記」は、本屋で何度も目にしていた。買うかどうか迷っているうちに自分の中ではいつのまにか購入意欲が薄れてしまっていたが、この作品を見ていて再度、本を読みたい気持ちになった。

また、映画にも出てくる林芙美子の名言。
「花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき」この言葉が本人の人生にオーバーラップしていく。

林芙美子の生涯は、「文壇に登場したころは『貧乏を売り物にする素人小説家』、その次は『たった半年間のパリ滞在を売り物にする成り上がり小説家』、そして、日中戦争から太平洋戦争にかけては『軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家』など、いつも批判の的になってきた。

しかし、戦後の六年間はちがいました。それは、戦さに打ちのめされた、わたしたち普通の日本人の悲しみを、ただひたすらに書きつづけた六年間でした」と言われるように波瀾万丈だったとの事。

今は亡き森光子が2017回目も、演劇での「放浪記」にて主役を努めたのも懐かしい話になってしまった。

森光子演じる林芙美子が喜びのあまりでんぐり返しをするシーンは有名であり、「森光子といえばでんぐり返し」「放浪記と言えばでんぐり返し」と言われ、劇中最大の見所とされていたという。