1951年 アメリカ 原題:Strangers on a Train
アルフレッド・ヒッチコック監督の「見知らぬ乗客」は、一度見た映画でその時は平凡なミステリーに思え、面白いとは思わなかった。でも、「ヒッチコック/トリュフォー」(2015)というヒッチコックの映画技術や想いを映画監督中心に語るというドキュメンタリーを見て、思うところあり再度見なおしてみた。
列車の中で靴のつま先が当たったことで、「あ、失敬」と、声をかけたことから会話が始まる。テニス選手のガイは、見知らぬ男ブルーノに一方的にファンだという自己紹介と共に話しかけられる。その男はとてもおしゃべりで相手の気を引く。
「もしも完全犯罪できるとしたら?」「たとえばあなたが奥さんをかたづけたいとします。あなたが殺人をためらうのはなぜか、捕まるからです。なぜ捕まるのか、動機があるからです。二人の男が偶然出会う。二人には何のつながりもない。そこで殺人を交換する。あなたの妻と私の父を交換する」。
ガイは相手にせず、冗談だと思っていたらブルーノは本当に行動に移してしまう。
夜の遊園地、「ミリアム!どこにいるんだ!」というガイの妻の遊び相手の呼び声が届く近さの暗闇の中。首を絞められ女性の顔から落ちた眼鏡のレンズに犯人の首を絞める手つきがゆっくりと写り込んでいるという見事なショット。直接、殺人のシーンを映すより、より効果的に記憶に残り、それが恋人の妹の眼鏡にもリンクしている。
フランソワ・トリュフォーは「ヒッチコックは殺人シーンをまるでラブシーンのように、ラブシーンを殺人のように撮る」と指摘した。
ガイは国会議員の娘アンと一緒になりたいと思っていた。そのアンを演じた女優は、ルース・ローマンで長身で綺麗な女性で文才もあり小説も書いたという。その妹役は、「殺人を犯してまで自分を愛してくれる男性がいるなんて素敵ね」などと、冗談を言う面白いキャラクターを演じているが、どこか野暮ったく容姿は小さく顔も平凡でぱっとしない印象。実はヒッチコックの娘が演じていたという。
娘が出演してはいるものの、ヒッチコックは娘も面接してから採用した。撮影中は監督は娘とほとんど会話をせずに、娘もそれを当然として、スタッフが全員ヒッチコックを尊敬したという。
また、テニス選手につきまとうサイコパスな犯人役は、ロバート・ウォーカーが演じていて、その演技が高く評価された。
惜しいことにこの映画の後に、32歳という若さで死亡している。死因は主治医の精神科医が投与した鎮静剤と、体内のアルコールとの相助作用で急性のアレルギー反応を起こして死にいたった。
彼の最初の奥さんは女優でジェニファー・ジョーンズという女性。『聖処女』(1943年)の主演で華々しくデビューし、いきなりアカデミー主演女優賞を受賞する。その奥さんが世に出るきっかけを開いたハリウッドを代表する名プロデューサー、セルズニックと、奥さんが不倫関係になってしまう。
精神的に打ちのめされたロバートは泥酔しての乱行で逮捕されるなど、酒に溺れるようになる。彼も奥さんの不倫相手であるプロヂューサー、セルズニックの後押しでMGMと契約し、俳優として世に出ているのだから、なかなか複雑な関係だ。
彼は離婚した後に再婚するが、元の奥さんとセルズニックの結婚後に、精神的に追い詰められ精神疾患で入院する事となる。どうしても最初の奥さんが忘れられなかったのだろう。
この映画で、最後のクライマックスの場面は、メリーゴーランドでの犯人との闘い。スピードが加速し、メリーゴーランドを見る人、乗っている人の悲鳴が重なり、ますます緊迫感がます中で、子どもまでもが闘いに加勢したりする、ちょっとユーモラスな場面も入っているのが面白い。
そしておじいさんが勇気を出して急に加速したメリーゴーランドを止めた後の、メリーゴーランドの建物を巻き込んでの破壊シーンが、思いがけずすごかった。
『昔は、この映画の何をみていたのだろう?』
と、自分で自分を不思議になるくらい、この映画は新たな面白さをいろいろ発見できる映画だった。
参照:再びヒッチコック特集7見知らぬ乗客(1951年 サスペンス映画)
