アカデミー賞でのウィル・スミスのビンタ事件、自分の奥さんの容姿に関わることをからかわれたら、それは腹がたつだろう。無神経にも、刺激したコメディアンのクリスロックが自らビンタを引き寄せてしまっただけのことだろうと、思った。

また以前にもクリス・ロックはアジア人に対する差別的にも取れるような発言で問題になっていたという。そのようなコメディアンを、今回もまた呼んでいるのはなぜなのか。問題になったことのある人物を懲りずに呼び寄せて、いざ問題が起こるとウィル・スミスに非難の言を発していること自体にもアカデミーの問題があるように思う。

この件に関し、主催の映画芸術科学アカデミーは、
「アカデミーは、どのようなかたちの暴力も許しません。私達は今夜、世界中の同業者や映画ファンから認識されるこの瞬間に値する第94回アカデミー賞受賞者を祝福できたことを嬉しく思っています」と声明を発表。

28日には新たな声明を出し、ウィルの行為を非難したうえで、正式に調査を始めたことを明らかにした。

「アカデミーは昨晩のスミス氏の行動を非難する。われわれは正式な調査をすでに始めており、規則や行動基準、カリフォルニア州法にのっとって、さらなる対応を検討する」

しかし予想通り、「ドリームプラン」の熱演で今年の主演男優賞を受賞したウィル。クリスが被害届を出していないため、今のところ逮捕・起訴されることはないという。

● 「ノー」と言う勇気を身につけた
ウィル・スミスの奥さんのジェイダ・ピンケット・スミスは女優で、自己免疫疾患による脱毛症を公表している。現在50歳。数年前から脱毛症に悩んでいたジェイダは、自身がMCを務める番組でそのことを告白し、昨年からは頭を丸刈りにした姿で公の場に登場するようになった。



ジェイダは数日前にTikTokで、黒人のハリウッド女優が頭髪を失うことや、自身の現在のヘアスタイルについて告白している。

まずは「私がヘアについて後悔しているのは確かよ。特に表紙ではね」と笑いながら快活な調子で話し始めた彼女。

「ハリウッドで、髪に問題を抱えた黒人女性でいることは大変。特に私がデビューした時代は、ヘアスタイルはできるだけヨーロッパの人々っぽい方が常に良しとされていたから。とてもチャレンジングだったわ。だって、私はワイルドでカーリーな自分の髪が好きだったのに、そん
なの誰も必要としなかったから」と説明。

「常に自分らしく自然だとは感じられないヘアスタイルにしなければならなかった。だって、ハリウッドで勝負しようとしていたから」と、ハリウッドはストレートで流れるようなヘアスタイルを好む風潮があることについて触れた。

「でも、私はそんなことを望んではいなかったから、勇気を振り絞ってそんなことはしないと人に言うことを覚えた」という。

数年前に「ノー」と言う勇気を身につけたことで、今は自由を感じているとジェイダ。「私の剃った頭を見て人が何と思おうが構わない。だって、私はこれが気に入っているんだもの」

スキンヘッドを楽しむ彼女の姿には、女性たちから「自分も髪の毛の悩みを抱えているので勇気をもらった」という声が寄せられている。

● 自分が理想とする人間とは遠く
そんなウィル・スミスの奥さんに、クリス・ロックが指して発した言葉は「G・I・ジェーンの続編を楽しみにしている」という発言。スミスさんの妻の短髪をジョークにしたとみられる。

「G・I・ジェーン」は、1997年の映画で丸刈りの女性兵士が過酷な訓練に挑む姿を描いた作品。ウィルの奥さんならこの主人公を演じられるとイジったのだ。

直後にスミスは客席から舞台に上り、ロックの顔をたたいた。米国での放送はその直後に止まったが、スミスは席に戻った後もロックに向かって「妻の名前を口にするな」と怒鳴った。

でも、奥さんは「私の剃った頭を見て人が何と思おうが構わない。」と言っていたことから考えると、少々、怒りの行動が先走りし過ぎたと、言えるかもしれない。

スミスは28日、自身のSNSを更新し、クリスに向け謝罪コメントを発表した。

「どのような形であれ、暴力は有毒で破滅をもたらすものです。昨晩の自分の行動は許されるものではなく、どんな言い訳も通用しません。自分がジョークのネタにされるのは、仕事の一つととらえていますが、ジェイダの健康状態が揶揄されるのは耐えがたく、感情的になってしまいました」

「クリス、君に公式に謝罪します。私は常軌を逸し、間違っていました。私の行為は、自分が理想とする人間とは遠く、恥ずかしく思います」

「アカデミー賞の主催者や出席者、映画関係者、賞を見ていたすべての視聴者に対しても謝罪します」

 ウィルはまた「ウィリアムズ一家にお詫びします」と続け、自身が主演した映画「ドリームプラン」の登場人物のモデルとなった米テニス選手・ウィリアムズ姉妹とその父親に対しても、謝罪の言葉を綴った。

ところで、クリス・ロックとはどんな人物なのか。。

ラジオ番組の3月29日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で、映画評論家の町山智浩がこのように語っている。

● アカデミー賞ぐらいで、他は出れない人
『この人はものすごい毒舌なんですよ。とにかくめちゃくちゃ言う人で。もうほとんど、普通の時間のテレビに出るっていうのはアカデミー賞ぐらいで。他は出れない人ですね。非常に政治的な話をするんで。

もうブッシュ大統領の時代には徹底的にブッシュいじりをしていて。政治家についてはものすごい……トランプなんかもそうですけど。徹底的に、もうめちゃくちゃに言う人なんですよ。そこが人気のあるところなんですけども。』

また、町山智浩はウィル・スミスの影の部分を語っている。

『ウィル・スミス自身が出た映画っていうのは『ドリームプラン』っていう映画なんですね。で、その受賞の時の挨拶で彼が言っているのは「これはクレイジーな父親についての映画なんだけれども、自分自身もそうなってしまった」って言ってるんですよ。これは映画を見てもらったらわかるんですけれども。娘たちがチンピラにからまれるシーンがあって。
 

そこでお父さん役のウィル・スミスは拳銃を持って、そのチンピラたちを撃ちに行くんですよね。だから「家族を守る!」と言いながら、拳銃を持って突っ込んでいく父親なんですよ。

「それを演じてるから、自分もちょっとそうなってしまった」という風に反省をしてたんですけども……

これもまた、いろんな問題があって。ウィル・スミスさん、この間、自伝を出したんですよ。『Will』っていうタイトルで。そこで書かれているのは、「自分の父親がいつも母親を殴っていた」ってことなんですよ。

「9歳の頃に、自分の父親が母親を殴って。本当に殴って、叩きのめすのを見た。それから、ずっと見ていたんだ」っていう風に言っていて。

両親は離婚してるんですけども。で、2016年にお父さんが癌で亡くなった時に彼、介護に行ってるんですが。介護をしながら、つまり父親を運んだりしながら、「この父を今ここで殺してやろうかと何度も思った」って書いているんですよ。

だからすごくウィル・スミスさんっていうのは非常にいつもにこやかでね、ジョークばっかり言ってる人で楽しげなんですけども、ちょっと心の中には何か非常に傷がある人なんだなということもいろいろ言われてますね。』

参照:町山智浩 ウィル・スミスのクリス・ロック殴打事件を語る
    ウィル・スミスの妻、その数日前に「私の頭を見て何と思おうが構わない」と投稿

    ビンタ騒動のウィル・スミス、暴力を謝罪するも賞主催者は「許しません」