「ドライブ・マイ・カー」 2021年 日本

日本映画史上初めてアカデミー賞に4部門も、ノミネートされていながら、なんだかあまり盛り上がっていない濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」。地元の映画館でもようやく上映を始めてくれたけれど、一日に一回だけの上映。

それで、土曜日に行ってみたのだけど、やはり空いていた。まあ、混んでいて、ポップコーンの匂いと食べる音をうっとうしく思いながら見るよりは、空いてる方が快適でいいんだけど、若干、寂しい気持ちに。

アカデミー賞の期待で、映画の記事でもさんざん取り上げられていても、劇場に来るのは、この程度の人数なのか・・・・・と。

それで、内容なんだけど、改めて考えると変な話だ。

西島秀俊演じる舞台俳優で演出家の家福は、綺麗な女優の奥さんがいて、二人の子供を亡くしてからは夫婦だけの生活。それで、奥さんのほうは、男を色々変えて浮気をしている。

旦那の家福は、そんな奥さんを見てみぬふり。でも奥さんのことは愛していて、奥さんからも同様に「愛している」という言葉を投げかけられている。奥さんの死後に、『もっと真摯に向き合って話を聞いてやるんだった』と、後悔している。

けっこう旦那さんは人がいい。

またまた変なのは、奥さんの浮気相手の若者に、「酒をいっしょに飲みませんか?」と誘われてホイホイ着いていって、話を聞いている。友人のような関係になっている。

最後のほうでは、20代のドライバーの地元に車で行って、そこで家福は涙ながらに自分の心情を告白して、ドライバーを抱きしめる。さすがに『このシーンは原作に付け足したろう?』と、ぼくは思った。なんだか不自然だったから。

『このシーンをカットしてくれたら、よかったのに』という大きな不満を残したし、確認の意味で村上春樹の短編集「女のいない男たち」まで、買ってしまった。

さっそく冒頭の「ドライブ・マイ・カー」を読んで確認したら、やはりぼくが違和感を抱いたとおりで、だきついて泣くシーンなんて原作には存在しなかった。

でも不満だけではなくて、この映画でいいと思ったのは韓国女性の手話のシーン。手の動きと手を叩く音、口から発する音などが一定のリズムで動作していて、まるで手と指先と口で表現している創作ダンスのようだった。

以前、濱口監督の「寝ても覚めても」がとても好きな作品だったのも、今回劇場に足を運んだきっかけだ。最近の映画ではめずらしく「ドライブ・マイ・カー」は、場面ごとに静かに物思いに誘ってくれる。この不思議な気持にさせるところは、「寝ても覚めても」と共通な味わいがあるところかもしれない。