つげ義春と言えば、「ねじ式」という自分の見た夢の世界を描いた漫画が有名だ。ぼくも彼の
ちくま文庫で出している「ねじ式/夜が摑む」というタイトルの本を持っている。
「ねじ式」という漫画の主人公はまゆげのない、ちょっとすると中学生くらいに見えてしまうぼっちゃん小僧のような風貌が面白い。年齢不詳だ。でも、メメクラゲに左腕を噛まれてしまい、その治療をなぜか産婦人科の女医にしてもらう。そしていつのまにか肉体関係を結んでしまうところから、中学生ではないだろうという推測ができる。

ねじ式では、どこか会話のテンポも内容もずれている。いきなり工具を持ったおっさん風の
サラリーマンがでてきて
「なるほど きみの言わんとする意味がだいたい検討がつきました」
「きみはこう言いたいのでしょう イシャはどこだ!」
と、突然の発言。
でもその中年サラリーマンが位置的にどこにいるのか、どこから現れたのか何もわからない。
あとは、あまりに内容が暗くて衝撃を受けた「夜が摑む(つかむ)」も好きな作品だ。同棲している女性に、「こんな朝早くからどこへ行っていた」と、問いただし、服をむしりとると女性の体には無数のキスマーク。そのキスマークが体の痣のようにも、もしくは虫のようにも見えて、不気味。
自分の暴力に逃げたかのように見えた女性に外で偶然に逢って、不安の気持ちのまま抱きしめると、彼女の持っている袋が地面に落ちる。その袋の中には髪の毛が入っていて地面にドバッと撒き散らかしてしまう。彼女は言う。
「あなたは床屋がきらいだからいつも私が刈ってあげてたじゃない。もったいないからためておいたのよ 売ろうと思って・・・・・・・・」
彼女は「自分を認めてくれる人の元へ行く」という趣旨の発言を残し、彼の元を去る。

そして同棲している女性はいなくなり、男は一人になり、びんビールを飲み横になると、夜のまっ黒な塊が部屋の中に訪れる。「ああ 夜だ・・・・・・・」「うわーっ」
と叫んで終わるという救いのなさ。
意味不明な漫画だけれど、だんだん味が出てくる「ねじ式」と、笑えるくらいに暗い気持ちにさせた「夜が摑む」、二つとも何度も読み直した漫画で、ぼくには大切な作品。つげ義春は1987年の「別離」が最後の作品とのことだが、新しい不思議な作品をもう少し描いてほしいとつい思ってしまう。
昨日、ニュースでつげ義春(84)が日本芸術院の新会員候補に、決まったというのを知った。つげ義春は「突然選出を知り、驚きました。選ばれるとは思っていませんでした。日本芸術院に関する知識もなく、自分なんかでよいのだろうかとも思いましたが、選んで頂いたこともあり、ありがたくお受けしました。」とのこと。
また「マンガ」分野では、「あしたのジョー」「おれは鉄兵」などで知られるちばてつや(83)も選ばれた。
