
「ハウルの動く城」 2004年 日本
宮崎駿 (みやざき はやお) の「ハウルの動く城」は、魔法でおばあさんになってしまった帽子屋の18歳の娘・ソフィーが、動く城の中でハウルという気弱な魔法使いに出会い、いっしょに冒険することにより、心に若さを取り戻していく物語。
動く城の造形がガラクタを集めたような建物で、アニメなのに妙にリアルで動きに愛嬌があり、面白い。現代アートのようにも見える。城の扉を開ければ、セットの仕方で『別世界に歩みだす。』という展開もスリリングだ。
何度か、シーン毎に出てくるアイデアのすばらしさに感心してしまった。意味が分かりづらい展開もあるけれど、「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」より、ぼくはこの作品に心ひかれた。
前回の「もののけ姫」と同様に、鈴木敏夫プロデューサーの書いた本「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」での「ハウルの動く城」のエピソードを読んで興味を持ち、DVDをレンタルした。
「鈴木さん、この本読んだ?」
と、宮崎駿監督が一冊の本を興奮した様子で鈴木に差し出した。本のタイトルが『魔法使いハウルと火の悪魔』で、イギリスの作家のファンタジー小説。
「ほら、ここを見てよ。もとのタイトルは『Howl's Moving Castle』いいよね。城が動くって」
その一言が、「ハウルの動く城」がスターとした瞬間だという。
でも、同時に進行していた企画があって、「猫の恩返し」というタイトルの作品で「ハウルの動く城は、暗礁に乗り上げてしまった。『ハウル』は制作を中止し、「猫の恩返し」に集中することになったという。
ある時、鈴木と宮崎駿が、トイレで隣同士になって、連れション状態での会話。
「鈴木さん、次どうしようか」
「宮さん、あれだけ『城が動くのが面白い』と言っていたんだから『ハウル』をやりましょうよ」
宮崎監督は一言、「分かった」
そこで、再始動することになったという。ある意味、劇的な瞬間なのだけど、それがトイレで決まったというのがユーモラス。スタッフは急に決まったので、みんなびっくりしていましたとのこと。
ハウルの声優は、誰がいいかというときに、キムタクの名前を出したのは鈴木プロデューサー。木村拓哉は昔から宮崎駿の大ファンで、じつは本人のほうから「ぜひ出演したい」というオファーがあった。
「どういう芝居をするの?」
という監督の質問に、鈴木が娘に同じ質問をした時の言葉を伝えた。
「男のいい加減さを表現できる人」
監督は、「それだよ!」と、賛成してくれたという。
木村拓哉がアフレコの現場にやってきたときに、鈴木はびっくりした。台詞がぜんぶ頭に入っていて、脚本は必要なし。いままでいろんな俳優さんに声をかけてやってもらったけれど、そんな人は後にも先にも彼だけだったという。
しかも第一声から監督が「これだ!」と納得する演技でほとんど注文をつけることなくアフレコは進んでいった。