「水を抱く女」2020年 ドイツ・フランス合作 原題:Undine

 

クリスティアン・ペッツォルト監督の「水を抱く女」は、“水の精・ウンディーネ”の神話をモチーフに描いた恋愛ドラマ。評判が良かった映画との記憶があって、レンタルして見た。

パウラ・ベーア演じる主人公の女性は、ベルリンの都市開発を研究する歴史家で博物館でガイドとして働いている。男性に対してなかなか切替の早い対応なのが面白い。

まずは、付き合っていた男に喫茶店で別れを告げられ、「行っちゃだめ。殺すはめになるわ」と、捨て台詞を吐きながら、「待っていて」と言いつつ仕事に向かう。

女性が戻ると男は待っておらず、彼女の博物館でのガイドの説明を聞いて、ファンになった男に「話がしたい」とお願いされる。

二人が向き合った時に、部屋にあった水槽が割れて中に入っていた水と魚が溢れ出て、店のフロアを水浸しにする。そして二人が溢れ出た水と衝撃で倒れ込んだのがきっかけで、彼女は男と付き合いだす。男は潜水作業員の仕事をしている。

『あれ?”殺す”と脅していた男には未練がもう消えた?』と、思いきや・・・新しい彼の体調が最悪な状態になってしまった時に、また元彼のところに出向いてしまう。

なんだかけっこう忙しい展開なんだけど、バックにはゆったりしたクラシックの音楽が流れところどころ不思議なファンタジックな場面もあって、余韻を残しつつ物語は終わる。

何個かよく意図がわからない場面もあったけど、それが後でクリスティアン・ペッツォルト監督のインタビュー記事を読んで、解けていった。

たとえば、主人公の女性が博物館で行うベルリンという都市の説明。時間はけっこう割かれている。彼女に博物館のガイドという職業の設定をした事に関してこのように説明。

「このベルリンという街は独自の言い伝えや歴史的なものをあまり持ちません。これだけの大都市になったのはせいぜい200年くらい前です。調べていく中で、昔々ベルリンという場所は沼地であり、そこの水を抜いて今のように人が住めるようになっていったと知りました。

私はその水を抜いたときに、本当は存在していたベルリン独自の歴史やストーリーも同じように抜かれて消えてしまったと想像しました。それを取り戻せる場所として(劇中の)博物館を存在させ、そこで働く人物としてウンディーネを描きました。」

また、女性が水中で溺れたときの彼氏の人工呼吸が、歌を歌いながら行う。ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」での一節「Stayin’ Alive, Stayin’ Alive…」と、リズムをつけて歌いながら、彼女を必死に人口呼吸で救う。

監督はインタビューでこう説明。

「実際にドイツでは救命救急の講習をするとき、ビージーズのステイン・アライブを歌って人工呼吸の練習をするんです。ちょうどリズムが合うんです。脚本にはすでにその設定を盛り込んでいたのですが、本作の撮影にあたって主演のお二人、パウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキに潜水の講習を受けてもらった際、講師が実際ステイン・アライブを使ってましたね。

あと、私もこの曲好きで使いたかったんです。でも、プロデューサーにはこれ外してくれないか?って言われました。一秒を使うだけでも2000ドルかかったそうです(笑)」

他にも監督から明かされて、うなづけることも多数あった。作品の意図を細部まで知りたいと思う人には貴重なインタビュー記事に思えた。

次回作の構想に関して、本作は3部作の第1作で、第2作で考えてるのは「火」、3作目はおそらく大地や水など、あらゆる場所に宿る神や精霊がモチーフになり、宮崎駿監督が描くようなイメージと、答えている。監督はジブリの映画が大好きとのこと。

参照:3/26公開『水を抱く女』監督が語る「呪われた悲壮美ウンディーネ像の解放」