
愛知県弥富市の市立中学校で、14歳の中学3年・伊藤柚輝(いとうゆずき)くんが同学年の男子生徒に刺殺された事件。
この事件は、中学生というまだこれから人生で色々な可能性を持った身でありながら、同学年の殺害という究極の選択をしてしまった事がまず理解しがたい。
男子生徒は、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。
殺害の理由を、ニュース記事で徐々に読めてきてはいるけれど、やはりぼくには「何故、その理由で殺害にはしるのか?」という疑問は消えない。
相手に対して、言葉で不快を説明できないにしても、殺すという手段でしか解決できないものではないはずだ。もう一つ、気になるのは男子生徒からの説明がされると同時に、「わかる、その気持ちわかる」というコメントが増えてきていることだ。
記事にしてわずか数行の説明により、男子生徒の説明に心が傾いていく人が多いことは不安を感じさせられる。
● サッカーチームで共に汗を流し
伊藤くんと男子生徒は小学校からの同級生。畑に囲まれた小さな小学校で、男子8人、女子12人の計20人で6年間同じ1つのクラスだった。中学校はひと学年50人ほどで、3年生は2クラスに分かれており、伊藤くんと男子生徒は別のクラスだった。

2人は、小学校では同じサッカーチームに所属して共に汗を流していた。しかし中学にはサッカー部がなく、伊藤くんは野球部、男子生徒はバレー部に所属していたという。
事件は、11月24日に起った。
男子生徒が使用した包丁は刃渡り約20センチで、刺し身包丁のような形状だった。包丁は事前に「インターネットで購入した」と供述している。通学カバンに包丁を入れて登校し、そのまま被害生徒を教室から廊下に呼び出して襲ったという。
事件が発生したのは午前8時すぎ。始業前でほとんどの生徒が登校して毎朝の読書タイムに向けて準備をしている時間だった。教室内には担任の教師もいたが、廊下でトラブルが起こっていたことには気づかなかったという。
現場の学校は他のクラスへ立ち入ってはいけないとのルールがあることも判明。少年はこのルールを守り、教室にいた男子生徒を廊下に呼び出して襲ったとみられる。
被害生徒は腹部を刺されたことによる出血性ショックで10時35分に死亡が確認されたという。傷は肝臓を貫通するほどの深さだった。
伊藤くんの同級生は、保護者に事件についてこう話した。
「事件があったときは『廊下から声が聞こえた』と言っていました。言葉の内容は聞き取れなかったようですが、叫ぶような声で柚輝くんが何か言っていたそうです。その後、柚輝くんがうちの子供がいた教室に入ってきて、バタリと倒れました。それを見ても、なぜ柚輝くんが倒れているのか、何があったのか、状況をまったく理解できず茫然としていたようです」(同級生の保護者)
事件発生時に加害少年は、「被害生徒とのやり取りで嫌な気持ちになることがあった」と供述しており、これまでに2人の間で具体的なトラブルは確認されていない。県警は慎重に調べているとの報道だった。
「亡くなった柚輝くんは、同級生を仲間外れにしたりいじめるような子ではないと思います。ただお調子者の部分もあって、口調が少し強めだったり、大きい声で話すことは確かにありました。もしかしたらそれが、子供同士だと勘違いを生んだ可能性はあるのかもしれません」(同級生親)
● 給食当番の時、すぐに箸を渡してくれない
逮捕された男子生徒を知る近隣住民たちもショックを隠せない。
「逮捕された少年は7人の大家族で生活していました。兄が1人いて、両親、祖父母、さらに曾祖母という構成です。昔からこの地域に住んでいた一家で、父親は農業系の仕事をしています。4年前には自治会長も務めていた立派なお家ですよ。
事件を起こした子は小さい頃から背が大きかったですが、大人しそうな子という印象です。今年のお正月には近所の神社にお参りに来ていて、大きくなったなと声をかけたら照れ臭そうに笑っていました。あんな普通の子がなんで……」
逮捕された男子生徒の祖父に声をかけると、憔悴しきった様子で苦しい胸の内を語った。
「私にとってはいい孫でした、節度ある優しい……本当に優しい子です。今回のことは、なんでこんなことになったのか全く想像がつかないんです。寡黙な子で、バレー部の試合で頑張ったことなんかは明るく話してましたけど、友人関係の話はそういえば全然聞いたことがありませんでした」
事件の約10日前にあった修学旅行では、男子生徒が携帯電話を持ち込んでいたのを別の生徒に見つかり、学校側から注意を受けていたということです。調べに対して男子生徒は「色々な悩みがあった」という趣旨の供述をしているとの事。
24日に殺人未遂容疑で男子生徒が現行犯逮捕された直後、彼は「(被害生徒に)嫌なことをされた」との趣旨の供述をしていることが、捜査関係者への取材で分かっている。しかし県警による同級生からの聴取では、2人の間の目立ったトラブルは確認されておらず、市教育委員会も「把握しているいじめ事案はない」としている。
男子生徒から述べられた主な記事になっている殺害理由は以下の3点。
・ 中学2年生の時、「(被害生徒が)給食当番の時、すぐに箸を渡してくれない時があった」
・「生徒会の選挙で応援演説を頼まれたのが嫌だった」
・「数人の友人と話している時に(伊藤くんが)割って入ってくるのが嫌だった」
箸を渡してくれない時があった件などは、学校に訴えていたことが市教育委員会への取材でわかった。学校生活のアンケートやその後の面談で被害生徒への複数の不満を述べていたと言う。
目立ったトラブルは確認されてはいないが、伊藤くんに対する不満は、蓄積されていったという事であろうか。
男子生徒を知る同級生は、「おとなしいけれど、友達もいたし、落ち込んだり元気がなかったりする様子はなかった」と、語っている。
加害生徒が伊藤くんへの複数の不満を述べていたというところから、記事になっている3点だけではない事が推測される。もしも主な理由が、先に述べた3点だけならば、肝臓を貫通するほどの刺し傷を追わせる恨みと殺害理由との差があまりに大きすぎる。
参照: 《愛知中3刺殺事件》「今思えばちょっと元気が…」事件の1時間前、家を出る男子生徒が祖父にかけた一言とは
中3刺殺、加害生徒「給食の箸をすぐ渡してくれない時も」…学校に複数の不満訴え