「悲愁物語」  1977年 日本

 

鈴木清順監督の映画の特集をかなり昔に見て、「悲愁物語」だけは面白いと思った記憶があった。

女性プロゴルファーが、当時の映画ではあまりみたことがないスポ根ふうに鍛えられる様子が目新しかった。なんせ、傑作スポーツ漫画「巨人の星」や「あしたのジョー」、「空手バカ一代」の原作者である梶原一騎が映画の原作者になっているからなのだろう。

何よりも俳優、原田芳雄が好きだったので、彼のスクリーン一杯の存在感に退屈しなかった記憶がある。

それで、懐かしさもあって今回DVDで見直してみた。ところが、自分の心にほとんど響かない映画に変わっていた。時間が自分を変えたことを改めて思い知らされた。

前半の主人公がプロゴルファーになる為に、特訓を受けるところまでは、梶原一騎風の展開で見れたのだが、その後のヘンテコな江波杏子演じるストーカー主婦が介入してくるあたりから興味が離れてしまった。

ストーカー主婦は、ずうずうしさ大展開で他の主婦まで彼女の家に呼んで、大はしゃぎする。これに原田芳雄がストーカー主婦に、「彼女に近づくな!」と脅す。でも主婦は、原田芳雄に色仕掛けで接する。

原田は主婦と怪しい関係にはまりこむとみせかけて、思いっきり突き放す場面は面白かったが、この後半が梶原一騎の原作に基づくのかどうかは疑問なところ。

プロゴルファーの息子が、ほのかなあこがれを抱く同級生の女の子と会話をかわす場面では、満開の桜の花がバックを飾る。綺麗なのだが、このシーンを入れた意味が伝わらない。同様に突然、奇妙な笑いが入ったり、白木葉子演じる主人公のヌードが挿入されたりする。

主演の白木葉子は、『あしたのジョー』のヒロインである白木財閥のお嬢様の名前から名づけられていて、素人の新人女優が務めている。この作品の他には山根成之監督「愛情の設計」77に助演、その後はモデルを続けるかたわら、テレビに出演したという。主な映画は2本だけのようだ。

「訳の分からない映画を撮る奴はいらない」と日活の社長からクビになった鈴木清順監督の当作品も、上映2週間で打ち切られたというが、『なるほど』と、肯けてしまうところ。

しかし、意味がわからないと切り捨ててしまわず、カルト映画の名作として位置づけられている作品なので、ネットで調べてみると意外な発見もある。登場人物それぞれに色の設定があり、例えば、主人公の爪の色の変異も、その色が定義する意味とリンクしているようだ。

この映画はわかりにくい映画を推理小説の謎を解くように、解き明かしていくのが好きな人には向いているのかもしれない。