「もののけ姫」 1997年 日本
映画でもDVDでもアニメは普段はほとんど見なくて、特に日本のアニメは年に2,3本しか見ない。
でも、ちょっとためしに宮崎駿(みやざき はやお)監督の「もののけ姫」を見ようと思ったのは、映画プロデューサー鈴木敏夫の書いた「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」という本がやたら、面白かったから。ぼくのようなアニメ拒否の男も、アニメを観たいと思わせる力を持った本だ。
鈴木敏夫の高畑勲と宮崎駿と共に歩んだ体験のエピソードの面白さと文章の表現力の力を感じた。一つの技だと思った。
映画「もののけ姫」で描かれるのは、室町時代。
突然、村に現れた大きな黒い虫の塊、やがてはそれが黒いミミズに覆われ中にいるのは馬鹿でかい猪だということがわかる。それはタタリ神とのこと。
その神の暴走を食い止めようとした17歳の少年は村を救うため、「タタリ神に手を出すな、呪いをもらうぞ」という忠告を無視してタタリ神を倒してしまう。
その時に腕に怪我をして、それが死に導く呪いだと教えられる。少年は呪いを解く術を求めて深い森の中に旅に出る。
戦闘シーンがけっこうあって、首が飛んだり手首が刀で切られて落ちたりなど、残酷でびっくりする場面が出でくる。でも背景は緑が多く、樹や水や空が広大なイメージを喚起させる。幻想的なシーンも多く、見ごたえがある。
内容は一度見ただけではわかりにくい。それにもかかわらず、退屈させないポイント、ポイントでの楽しませ方、見せ方がうまいと思った。
物語全体の理解は何度か見直してわかる内容に思えた。ある意味、かなり大人向けの内容だ。
ところで、鈴木敏夫の本によると、この映画の製作自体がかなり難航したという。当時の日本映画界には「チャンバラものはもう終わり。興行的にも成功しない」という雰囲気があったという。
おまけにその夏にはアメリカからスピルバーグの超大作「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」が上陸することになっていた。「それと正面から戦って勝てるのかな?」関係者の顔は曇るばかりだったという。
製作費や宣伝費から計算すると収支をトントンに持っていくためには、蔵原惟繕(くらはら これよし)監督の「南極物語」が持っている日本映画の最高記録、配給収入五十九億円を超えなければいけないことになる。
そこを東宝で配給をしきっていた西野文男・常務に「西野さん、僕が言うのもおこがましいけど、最終的に小屋の問題でしょう。観客動員のアベレージの数字は分かっているんだから、いい小屋を集めて案配できれば、必ずしも不可能な数字とは言えないんじゃないですか?西野さんの号令があれば、全国の館主が動いてくれるはず。何とかやってもらえませんか」と頭を下げて頼みこんだ。
地方キャンペーンもかつてない規模で回り、そのおかげで宮崎駿は疲労困憊。ついに高知県で倒れてしまったという。
結果、公開が始まってみれば、それまでのジブリの記録はもちろん、目標だった「南極物語」の記録もあっという間に抜き去った。さらに日がたつほどに客足は伸び続け、日本映画興行の最高記録、「E.T.」の九十六億円をも抜くことになったという。
