「時代屋の女房」 1983年 日本

高岩淡の「銀幕おもいで話」という本を読んでいたら、女優・夏目雅子の話がでてきた。

彼女は「鬼龍院花子の生涯」という映画の「なめたらいかんぜよ」のセリフが有名で男女問わず、みんなに愛された美人女優だけれど、残念なことに27歳という若さで白血病で亡くなっている。

「鬼龍院花子の生涯」の五社英雄監督は撮影中から夏目雅子の魅力にほれ込んでいた。監督は主役を演じた仲代達矢と高知の旅館で夏目雅子を酔っぱらせて、口説こうと考え、ブランデーをどんどん飲ませていた。ところが、彼女は実はアルコールに強くてけろっとして飲んでいる。五社監督と仲代のほうが先にひっくりかえってしまった。監督と俳優の良からぬ計画は失敗に終わったということだ。

というエピソードを読んだら夏目雅子の映画を見たくなった。

何作か、彼女が主演した映画やドラマを過去に観ているが、ぼくは森崎東監督の「時代屋の女房」が一番好きだったので、もう一度見直してみた。

東京で「時代屋」という骨董屋を開いている35歳の独り身の男の元に、真弓(夏目雅子)という若く綺麗な女性がノラ猫を抱えてふらりと訪れて住み着いてしまう。ところがある日突然、姿を消しては、また現れる。直木賞を受賞した村松友視の同名小説の映画化。

その現れるときに、家の前の歩道橋からニコニコ顔で何事もなかったかのように傘をさして帰ってくる。その明るさが彼女が演じると本当にさわやかで綺麗だ。

映画の中で真弓の「いろんな人がいろんな時代に使った物を売る、ポップは古道具屋さん、品物じゃなくて時代を売る」という会話が出てくる。会話の中の言葉に味わいがあるが、さらには出ている俳優が同じく味わい深い。

いま、再放送されている連続ドラマ「マー姉ちゃん」でキリスト教を信仰する生真面目な母親役をやっている藤田弓子。彼女はこの映画では飲み屋のおかみさんで、夜は亭主にプロレス技のコブラツイストなどをかける役をやっていて面白い。

また津川雅彦も、ふわふわとした人生に根の張っていない喫茶店のマスターである中年男を演じていて、「時代屋」の主人を演じた渡瀬恒彦と、いいコンビを演じていた。

名古屋章も、いなかにいそうな味のある平野旅館の主人を演じていて、笑わせられて感心させられ、その演技力に感嘆した。

実際に信じられないような若さで目の前からいなくなってしまった夏目雅子。
彼女は映画のように、何事もなかったかのように、この世に再び笑顔で現れてくれるのではないか・・・・と想わせてくれるような、映画だった。