
「熟れた快楽」 2016年 ドイツ 原題:Original Bliss
「熟れた」という3文字は後に何の単語をつけてもそれなりに卑猥なイメージを想起させるから、便利な言葉だなと、思った。
その3文字に「快楽」がくっついたら、それは想像力が働くというものだが、主役のマルティナ・ゲデックは、けっこうな年齢で彼女に想像力をたくましくできる人は、もうかなり限定されてしまうのではないか。
彼女は、2006年には「善き人のためのソナタ」というアカデミー賞も受賞した名作にも出演していた女優だ。
その”折れた、エロ期待”にもかまわず、スヴェン・タディッケン監督の「熟れた快楽」を見続けられたのは、エロ抜きでけっこう面白いのだ。
映画にでてくるセリフに深みがあって、エロを狙った映画ではないことが数分見ていてすぐわかるし、つまりは、邦題はまったくの見当違いである事もわかる。
子供のいない主婦であるヘレーネは、眠りが不規則で夜中の3時頃に起きてテレビをつけてそのまま寝入ってしまったりする。朝は、ヘレーネは横たわったままの姿で夫には会話なしで見送っている状態。夫がつけっぱなしのテレビの音を消して仕事に行く。
ある日、部屋の掃除をしていたら、ラジオで脳科学者のエドゥアルトが話している内容が聞こえてくる。
「4歳の頃のある夜、貨物列車の音が原因で私は眠れなくなりました。よく覚えています。」
”眠れない”という部分に自分との共通箇所を見出したのか、エレーネはラジオのボリュームを上げる。
「覚えているのは部屋のドアが開くと――――
母の美しい姿が見えたことです。ほのかに甘く繊細な母の香りが漂ってきて意識の奥の柔らかい場所から連れ戻されました。思考と自分自身しか存在しないその場所に戻りたかった。」
ヘレーネは掃除の手を止めて、ラジオの内容に聞き入る。
そのエドゥアルトに合いに行ったことから交際が始まるのだが、彼は彼女に自分がポルノ中毒であることを告白する。その告白が、自分の見ているポルノ映像の説明を具体的にするから、突然聞かされたヘレーネは引いてひまう。
でも、エドゥアルトはポルノ中毒とはいえ、自分の仕事である科学者としての実績は残している。それだからこそラジオ出演から、公演など積極的に活動しているわけで、ポルノはその活動の合間の趣味のように見えて、そんなに病的な感じはしなかった。そこが、物語的に少々中途半端になったように思えた。
終盤、夫からエドゥアルトへの嫉妬で暴力を受けたヘレーネが、包帯だらけの顔と首にギブスを巻いた動けない悲惨な状態で病院のベットに横たわっている。
エドゥアルトがお見舞いに来る。
へレーナが聞く。「私の見た目は?」
「見た目?」
「夫は外見のことを一言も言わなかった」
「キレイだ。ただ鼻が少し折れている。今、着せられている服は正直イマイチと言わざるを得ないかな」
「廃人みたい?」
「ああいや違うよ。美しい廃人だ」
というような、ヘレーネとエドゥアルトとのやりとりが心に残った。ぼくとしては見て良かったと思える作品だった。