
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」2005年制作 アメリカ 原題:A History of Violence
アメリカの小さな田舎町。トムは弁護士をしている妻と二人の子供達と幸せで静かな生活を送っていた。トムはお店を経営している。閉店間際に入ってきた男二人は、閉店を伝えるトムに、強い口調で注文し銃を突きつけた。危険を察知したトムは、一瞬の隙をついて店の客を救うのだった。
そのあざやかすぎる手口は国内のメディアの注目をあびてしまう。数日後、ニュースの影響で大繁盛する店に、威圧的な二人組みの男が現れた。その一人、目がえぐれた男はトムのことをジョーイと呼ぶ。
その日から、男たちは家族に執拗に付きまとい始めた。
これは、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のストーリーの紹介をまとめたものだが、この紹介を読むだけで、ぼくは想像力を刺激される。
過去を持つ男が、幸せな家庭生活を送ることの難しさをこの映画から感じた。家族に執拗に付きまとい始めた男達は、トムの静かな幸せの生活に対して、疑問を突きつけているかのようだ。「その生き方は偽りだろ?」と。
それはともかく、トムのすばやいアクションの中に、”輝く生命の美”があることを感じさせる。
トムが平凡に店の中でコーヒーを作っている姿より、瞬間的に目にも止まらぬ速さで、形勢逆転し、相手を銃で撃っていく姿のほうが美しい。実にカッコよく決まっていた。
息子が同級生の挑発に暴力を振るって、相手にケガをさせてしまう。トムは息子に「暴力で物事を解決しようとするな!」と、怒る。息子は怒りの声で、「それじゃあ、お父さんのように銃で解決すればいいのかい?」これは効いてしまう。
この映画で、トムは息子に最低限の社会のルールを教える事すらできない。息子との関係がこわれていきそうな不安が漂う。それは、トムの妻との関係においても言える。
「あなたは私が愛したトムではないの?あなたは本当に今まで何人もの人を殺してきたの?」
その責めに逃げずに向かっていくトムの姿が、最後まで緊張感を持続させる。これがこの映画にひきつけられたおおきな理由だ。
ひとつ、不満はトムの妻は弁護士という設定のわりには、その職業を感じさせない事だ。トムがつきまとわれて困っているときの対応が、弁護士ならば、そのような行為に対してもっと別の抵抗、もしくは発言などがあってもいいように思う。
それと、彼女が結婚したときに、トムという人物に関しての情報があまりに空白。こんな状態で、弁護士なのに何も調べもせずに結婚生活に突入していくものだろうか?
ということで、トムの奥さんの描き方に多少不満。でも、ハラハラして面白かったし人間と暴力とのかかわりも掘り下げており、ぼくにはこの映画は忘れられない1本となった。