「ナイチンゲール」 2018年製作 オーストラリア・カナダ・アメリカ合作 原題:The Nightingale

ジェニファー・ケント監督の「ナイチンゲール」を、DVDをレンタルして観た。ひさびさにずしりと心に残る映画だった。

園子温監督のこの映画に捧げたコメントがいい。
『主演女優に惚れることは、滅多にない。私は、この主演女優に、心から惚れた。彼女と仕事したい!と感動に打ち震えた!つまり、この映画は大傑作なのだ!』

ナイチンゲールというと戦争時代のイギリスの看護婦で、偉人の一人というおぼろげな知識がある。でも、そのナイチンゲールのことではない。それは、ポスターの暗めの印象からも想像できる。

この映画で言っているのは、鳴き声がきれいで有名なナイチンゲールと言う名の鳥のこと。清冽な歌声を持つ主人公の女性であるクレアのあだ名“夜鳴きウグイス”から付けられた。

舞台はイギリス植民地時代のオーストラリア。盗みを働いたことから囚人となったアイルランド人の若く美しいクレアは、イギリス軍将校ホーキンスに囲われ、刑期を終えても解放されず拘束されていた。

クレアの夫は、ホーキンスに抗議するのだが、彼は仲間といっしょにクレアをレイプし、彼女の目の前で、夫と子供を殺害してしまう。クレアも暴力で失神し、朝に気が付いたときに殺害した軍人を追いかけようとしたら、既に旅立った後だった。クレアは、その将校らを追って怒りの復讐の旅にでる。

この映画は残虐シーンが過激で映画祭で上映したときに、30人が途中退席したという記録もある。

しかし、主人公の復讐の道案内に雇わられたアボリジニ人の青年ビリーを演じたバイカリ・ガナンバルが、ベネチア国際映画祭で新人俳優賞をとったり、作品が審査員特別賞をとったりと、2冠を獲得。

またナショナル・ボード・オブ・レビューのトップ10映画に選出され、オーストラリア・アカデミー賞では作品賞、主演女優賞を含む6部門で最多受賞作品となった。単なる残酷映画ではなく高い評価を得ていることがわかる。

人間の人種差別の恐ろしさが描かれている。それはクレアの家族を殺した軍人の言動だけではなく、クレア自身の中にも人種に対する偏見があることを示している。

後々、クレアを助けて重要な役目になるアボリジニ人の青年ビリーに対して、最初に道案内として彼を推薦されたときには、彼自身や彼の文化に対し、クレアは強い偏見を露わにしている。

その青年ビリーとクレアとのやり取りが面白く、クレアのとにかくはやく軍人に追いついて復讐したいというあせる心をビリーは現実と照らし合わせて、冷静に諭していく。彼はとてもいい味をだしており、この映画が初演技だということに驚かされる。

当映画のリアリズムに徹底した、容赦ない残虐描写から男の監督だろうと勝手に思い込んでいたが、ジェニファー・ケント監督は女性と知って驚いた。

監督は、映画の画面サイズを横が狭く縦が広いスタンダードサイズを採用した理由について、「タスマニアの旅記録みたいにはしたくなかったの」「風景の中心に人物を置きたかった」と語る。

またホラー映画「ババドック~暗闇の魔物~」の次に本作を手がけたことに関して「何をやりたいかをとても直感的に決めているの」「本作こそが私が伝えたかった物語」と述べた。

ぼくは映画DVDは、たいてい食事しながらみるのだが、さすがにこの映画は食事しながら見ることに合う映画ではなかった。

うちの奥さんも『映画でどんよりしてきた。部屋の空気の入れ替えが必要』だとか、スマフォで検索して、『「胸糞悪い映画」との感想があるよ。』とか一人で色々騒いで大変だった。

しまいには先に寝ると言って、これで安心して静かに見れるかとおもいきや、また、「気になるから」と起き出して見終わったら、「もうこんな残酷な映画は借りてこないで・・・・・」という始末。

というわけで、本作は『映画は映画館でみないと落ち着いて観られない』ということを再認識させられた一作となりました・・・・・・。

参照:復讐スリラー「ナイチンゲール」監督が語る「タスマニアの旅記録にはしたくなかった」