「ザ・スイッチ」 2020年製作 アメリカ 原題:Freaky

連続殺人鬼と気弱な女子高生の身体が入れ替わってしまうという設定のクリストファー・ランドン監督の『ザ・スイッチ』という映画を観た。

内容から推測すると、異色のホラー・コメディと思えた。
でも観る前に読んだ映画評ではけっこうグロさも徹底していると書かれてあった。

最初に図体がデカイ殺人鬼に夜中、郊外の洋館で仲間の高校生4人が次々殺され、さらに主人公の女子高校生・ミリーが闇の中を追われて必死に逃げる。殺人鬼は13日の金曜日のジェイソン マスクをつけている。その場面には、ユーモアの場面などなくひたすら恐怖観を煽る演出で徹底していた。

殺人鬼に不気味な短剣を突き立てられたミリー。その時、雷鳴が鳴り響き、さらには警官であるミリーの姉が助けに入ったことで、間一髪難を逃れる。

ミリーが翌朝、目を覚まして鏡を見ると、そこに映っていたのは自分ではなく、殺人鬼だった。

一方、殺人鬼は気が付くと、女子高校生の身体になっていた。それは、殺人鬼の立場からすれば、若い獲物を殺すのに怪しまれないし、実にラッキーなことだ。現に、映画の中でも殺人鬼はその姿で学校に登校し、自分に都合のいいように見た目を利用していく。

しかし、中年の殺人鬼になってしまった女子高校生の悲劇は大きい。

もしも自分が若い頃に、中年の殺人鬼のおばちゃんに体が入れ替わってしまったと想像してみると、その絶望感たるや半端ではない。

ところが映画では、女子高校生のそこの絶望感はあまりリアルに描かれていなくて、彼女が嘆くまもなく物語はどんどん進んでいく。若い体からいきなり性別の異なる中年になった悲劇を描いていないので、殺人鬼の姿をしている女子高校生の気持に心が入っていかなかった。物語に取り残された気持ちになった。

それに、体が入れ替わってしまう映画や漫画全般に言えると思うが、入れ替わったときの行動にリアル感がない。もし性別が異なる他人に入れ替わったら、鏡に裸体を色々な角度で映してみて、その違和感に慣れる為にも何度も何度も確認するのではないだろうか。

女子高校生に入れ替わった殺人鬼が、服の上から手で胸の感触を確認する程度のシーンで終わっていた事には、大いに疑問。もう少し現実に即して丁寧に描いて欲しいと思った。そこの物足りない部分を除いたら、映画は面白かった。

この映画はプロデューサーが有名な人。映画界では新人だったジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』を筆頭に、『セッション』、『ブラック・クランズマン』とアカデミー賞候補作を3本をプロデュースしている。そのプロデユーサーの名前はジェイソン・ブラム。

ジェイソン・ブラムは、この作品に関してグロな部分を抑えて一般向けにしたかったのに、クリストファー・ランドン監督の要望でこのような作品になったという。

「正直に言えば、ソフトなPG13指定の映画を作って欲しかった(笑)。だが、僕らは監督の創意を尊重し、ファイナルカット権(公開用最終編集版)を委ねる。その条件があれば、偏見を持たずに意見を聞いてくれるからね」。

「『ザ・スイッチ』も“あえて”言うなら、ジェンダー・アイデンティティの物語だけど、それ以上に恐くて面白い、ハラハラドキドキの映画に仕上がった。映画の枠組がある以上、主題にタブーは存在しない」と語った。

 

参照:作品にタブーはなし! 製作170本以上のホラー界名プロデューサー、ジェイソン・ブラムに話を聞いた