「キーパー ある兵士の奇跡」2018年 イギリス・ドイツ 原題:THE KEEPER/TRAUTMANN
 

ドイツのナチスがユダヤ人の虐殺や人種差別に関わったことを描いた物語はたくさんある。でも今回のマルクス・H・ローゼンミュラー監督の「キーパー ある兵士の奇跡」という映画は、逆にナチスだったということで、差別を受けた男の人生を描いている。

彼は罵声やブーイングを浴びながらサッカーの名プレーを武器に圧力に負けず国民的英雄になった。映画はその実話に基づいた物語だ。

第二次世界大戦でイギリスの収容所に送られた元ナチス兵のバート・トラウトマンは、収容所で過酷な日々を過ごしていた。その鬱屈とした日々のなかで、収容所でサッカーすることを楽しんでいた。彼はゴールキーパーとして天才的な才能を持っていたのだ。

たまたま収容所に訪れていた、地元のサッカーチームの監督の目に彼のプレイが目にとまる。やがてはチームの勝利の為にキーパーとしてプレイしてもらう為に一時的に捕虜のトラウトマンの身体を収容所まで借りにくるようになる。

チームの監督には娘・マーガレットがいるのだが、最初はトラウトマンと距離を取っていた。マーカレットはトラウトマンをチームに迎えることも、自分の家で働かせることにも大反対だった。最初はマーガレットの妹が彼を好きになり、やがては彼女にとっても彼の存在がなくてはならないものに変わっていく。

ナチスの兵士だった彼は、マーガレットに戦争の起こした悲劇を責められる。「ドイツ軍は友達だけではなく、青春も奪った」その言葉に対して
「選択はできなかった」と、答える彼の言葉が重い現実として心に残る。

監督の娘との恋愛も、サッカーも最初はトラウトマンが元ナチス兵であることがネックとなっていたのだが、やがてはその壁が、一人の人間としての存在感の前で崩れていく。

本作はドイツのバイエルン映画祭最優秀作品賞をはじめ、アメリカ、イギリスなど各国の映画祭で賞に輝いているとの事で、それも納得のできばえ。

主演を務めるデヴィッド・クロスは、本作に込められたメッセージをインタビューでこのように語った。
「スポーツは国をつなぐ、素晴らしい力を持っていると思う。チーム・スピリットが、政治的な違いを超えるものだと教えてくれ、連帯感をもたらしてくれる。トラウトマンは英国において“平和の大使”のような存在となったんだ」