「透明人間」2020年 アメリカ 原題:The Invisible Man
透明人間になったら、何をしたいか?」
とは、誰もが一度は空想したことがあるのではないか。
そのもろもろの空想の中の一つに、『好きな人の側にいて相手に気づかれずにその人の日常を観たい。』という願望も、大きな位置を占めるかもしれない。
まさしく今回の映画「透明人間」は、その欲望をそのまま表現している。
天才科学者である元恋人・エイドリアンの束縛から、やっとの思いで脱出したセシリアは、やがてかつては同棲していたエイドリアンが自殺したという事を知る。しかし、セシリアは自分が常に誰かに見られている気がする。自殺したはずのエイドリアンが透明になって自分をじっと見張っている・・・・。
という恐怖。
リー・ワネル監督の「透明人間」の前半は、ストリーよりも音楽が怖いけど、ややスローな展開でぼくは少々眠けに誘われていた。
それに主人公の女性を演じたエリザベス・モスがあまり好みの顔ではなくて、”主人公の姉を演じた女優のほうがいい”などと思って眺めていた。姉と思った女優は実は妹の役だったけど、妹・エミリーを演じたハリエット・ダイアを主人公にしたほうが、まだ華やかなイメージを感じてよかったのではないか。
主人公は、つきまとう透明人間にこのように問いかける。
「私はつまらない平凡な女性。その私に、なんでそんなにつきまとうの?お金もあるあなたは、私なんかにこだわらなくてもよりどりみどりじゃない?」
正確には違うかもしれないが、こんな内容だったと思う。その言葉にはぼくは大きくうなずいた。
その「なぜ、そんなに逃げた女を追うのか?」という部分に映画では、何も触れられていなかったのがやや物足りなく感じた。
顔はともかくとして、エリザベス・モスがインタビューで「――あなたが怖いものはなんですか?」と、聞かれ
「目に見えない“何か”ね。目に見えない脅威は、自分が無力であるがゆえに恐ろしい。それが何なのかが分かれば反撃することもできるし、攻撃されていることに気づくこともできる。でも、それが分からなければ何もできない。これは誰もが恐ろしく感じることだと思う。あとは、こうして人前で話すことね(笑)。」と、答えているのは、なかなかユーモアがあって面白い。
それはともかくとして、後半からストリーがSFから完全にミステリーに変換されたようで、ミステリーな展開が好きなぼくはそこで初めて画面に集中した。意外性の連続でとても面白くなった。
透明人間との格闘シーンも迫力があり、ときどき透明スーツのパワーが落ちるのかなんなのか、上半身の半分だけ出てきたりで、いかにも「透明人間」が人間が人工的に作り上げた感が伝わり、ビジュアル的にも楽しく観れた。
ところで、透明人間というのはいかにもフィクション的に感じるが、調べてみたらまんざら実現性がないわけでもなく、細胞の透明化に関して徐々に研究がされているようだ。
ネズミの細胞を透明化する研究を行った上田泰己博士はこのように透明化に関して語っている。
「脳や全身の臓器を試薬に1週間から2週間程浸しておくと丸ごと透明になり、これを染色すると、1個1個の細胞を観察できるようになります。こうして哺乳類(マウス)の全身透明化を世界で初めて実現することができました。」
写真をみると、完全な透明にはもちろんなってはいないのだが何かこれがこのまま進めば
近いうちに本当に生物を透明化することが可能になるのでは?と思えてくる。それはまた、別の『透明生物(動物?)』という恐怖を味付けした映画ができそうだ。
