まったく予想がつかなかった事というのは起るもので、自分が生きている間にまさか、映画館がいっせいに休館して映画が見られなくなる日が来ようとは思いもしなかった。今年はそういう意味でも忘れられない年になりそうだ。
テレビも周りの会話もネットニュースも完全にコロナに侵されてしまったかのようで・・・・・・。
特にテレビのニュースは一日中コロナの話題オンリー。『他に伝えるべき事件はないのか!』と、怒りたくもなってくる。『もうコロナの暗いニュースは聞きたくもない!』というのがぼくの正直な感想だ。
あたりまえに思っていた日常がすぐに外の圧力で変わってしまう怖さも知る。映画がなければ、TUTAYAや、GEOからDVD,もしくはBlu-rayをレンタルすれば、なんとか仮の楽しさを味わえる可能性はあるものの、やはり大きな画面での映画が一番の気分転換になる。
まるで自分自身が消えてしまったかのように、画面に集中できる映画館の没入感は、家の中のDVDやBlu-rayでは味わえない世界だ。
とはいうものの、映画がみれない状態というのは、5月6日以降の様子を見るしかしょうがないのだろう。ということで、見たDVDの感想を書いていきたい。

「1987、ある闘いの真実」2017年 韓国 原題:1987: When the Day Comes
● 26個の受賞
チャン・ジュナン監督の「1987、ある闘いの真実」を見た。これはGEOに行くたびにパッケージを見てレンタルするかどうするか迷っていた。なんせ映画の賞の受賞している数が半端なく多い。”中にはなんの権威もない、まがいものの賞もあるのでは?”と疑いたくなるほどに取って
いる。作品賞のみならず、チャン・ジュナン監督も、悪役のパク所長を演じたキム・ユンソクも、脚本を書いたキム・ギョンチャンも当作品で賞を取っていてウィキペディアに載っている賞の数を数えただけで、26個あった。
ストリーはシンプルで韓国の実話を映画化。1987年、行き過ぎた取調べの拷問にあって一人の大学生が死亡した。それをごまかして、政府や警察の上層部が突然死として処理させようとした。しかし、独裁国家の真実を暴こうと検事や新聞記者達が必死の活躍をし、真実を暴いていく姿が映画で描かれている。
1987年、翌年にオリンピック開催を控える韓国で国民が独裁国家と闘った韓国民主化闘争の実話がベースとなっている。
刑事役に、傑作映画「お嬢さん」で”伯爵”と名乗る詐欺師役をやったハ・ジョンウや令嬢・秀子に同性愛的な気持ちを抱いていまう少女スッキの役をやったキム・テリなどが出演している。
政治的な実話がベースだということで、何か堅苦しくて難しいのかなぁと漠然とイメージしていたがそんなことはなく、退屈するシーンなど一つもない実にエンタメ性もあり、普遍的なメッセージ性もある充実した作品だった。
なぜ、こんなに面白いかというとパク所長が徹底した憎々しげな顔をしていて人を人とも思わないような冷血漢なのがいいのかもしれない。悪役の存在が強烈だとその分、ストーリーにスパイスが効いて味わい深くなる。
さらには、その男の周りに付き添っているチンピラのような輩に、絶対屈しない刑事役のハ・ジョンウも忘れられない。登場の時間がやや少なめで、もっと出演してほしいくらいだった。
それと、男ばっかりの世界に色付けしているのが、キム・テリ演じるヨニ。政治的な興味などないのに、活動家の大学生に一目ぼれしたり、活動家のメッセージを民主化活動家のキム・ジョンナムに渡す一役買ったり・・・。また、アニメの催しものと聞いて、中で観たら光州事件のドキュメンタリーを見せられて、涙する・・・・・・・といった感情の起伏が激しくも、可愛らしい女性を演じていて、暴力や血、怒鳴り合いなどの刺激の多いシーンに華を添えていた。
監督は、「お嬢さん」でキム・テリを見た時に、「新人なのに演技が上手で驚きました。」と感想を述べている。実際にキム・テリ会ってみたら、ヨニにピッタリだと思い、「複雑で難しい演技を上手く演じてくれました。」と述べている。
● チャン・ジュナン監督の意図
ところで、実に見応えの作品である「1987、ある闘いの真実」は、実はどのような意図で作られたのか。ぼくが映画を観て感じたエンタメ性に関しては、監督はあまり意識していないようで、そのことが少々意外ではあった。チャン・ジュナン監督はインタビューで以下のように答えている。
--1987年、監督は高校生でした。その当時の記憶や民主化闘争に対してどのようなイメージを抱いていましたか?
「私は当時、全州に住む平凡な高校3年生でした。自分の住む地域でもデモは多く行われていて、登下校の際にデモをする姿を良く目撃していました。また授業中に催涙弾の匂いのために窓を閉めきって授業していたことも覚えています。
忘れられないエピソードがあります。ある日、友人に“学校の近所にあるカトリックの聖堂で不思議なビデオを見せてくれるらしいから一緒に行こう”と誘われました。好奇心旺盛だった私は友人と一緒にそれを見に行きました。その時に見たのが、「タクシー運転手~」に登場するドイツ人記者、ユルゲン・ヒンツペーターが撮影した光州事件の映像でした。
劇中、カン・ドンウォンに誘われてヨニたちが見た映像です。それを見た時、とても恐ろしかった。韓国でこのようなことが起きたということが信じられませんでした。そして、その事実を大人達が誰一人として語ろうとしないことが私にとってはもっと衝撃でした」
--この映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
「1980年の光州事件については映画、小説、論文などで取り上げられています。しかし、1980年の悲しみと怒りが凝縮され爆発して起きた1987年については語られていません。私はそのことにすごくもどかしさを感じていました。独裁政権から大統領直接選挙を勝ち取った歴史的にも重要な時期について、何故、誰も語らないのかと思いました。
また、自分も子供を育てる親となり、次の世代にどのような世の中を残すべきか、何を語るべきかについて考えるようになりました。1987年を振り返り歴史の鏡とすることができるのなら、次世代への大きなプレゼントになると思ったのです」
--日本の観客へ向けてメッセージをお願いいたします。
「この映画は1987年に韓国で実際に起きた政治的な物語を描いていますが人間ならば誰しも感じられる「我々が社会的な共同体となり生きて行く美しさ」について語っている映画です。歴史や文化は違うかもしれませんが、日本の観客の皆さんにも1987年に韓国で起きたこの奇跡のような物語が心の奥深くに届いたら嬉しいです」
参照:韓国の民主化闘争描く「1987、ある闘いの真実」チャン・ジュナン監督に聞く