ダニエル・クレイグと言えば、007のジェームズ・ボンド役が、ぼくのイメージとしては定着してしまっている。14年にわたって5作に主演している。でも本人は、ボンド役からは卒業の意志が固いようだ。
2015年の「007 スペクター」の会見で、「再びボンド役を演じるくらいなら、手首を切ったほうがマシ」と発言した。しかしその後、自身にとって通算5作目となる「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」への復帰を決めていた。そして再度、『ボンド役は終わり』と断言している。
とは言え、なかなか一度ついたイメージは消えない。『ジェームズ・ボンド役ではなくて今度は名探偵役で出るよ。』と聞いても、なにか微妙に違うような気がして、映画「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」には、今一つ足が重かった。
でも、ぐずぐずしているうちに上映が終わってしまった経験が何度かある。それに、ライアン・ジョンソン監督はブルース・ウィリス が出ている傑作SF映画『LOOPER/ルーパー』(2012)を撮った監督だし、今回のアカデミー賞の脚本賞にノミネートされている。ものは試しと思い映画「ナイブズ・アウト」を観に行った。
世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの85歳の誕生日パーティに、家族一同が作家のお屋敷に集まった。その翌朝、老作家は遺体で発見された。自殺とかたづけられそうな現場であったが、殺人ということで考えると、集まった全ての人が動機を持っているように見える。そこに依頼を受けた名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は、事件の調査を独自に進めていく。
映画は老作家の死は、殺人か自殺かということをキーに展開していく。そして老作家の死に吸い寄せられて集まった遺産目当てのあさましい親族の哀しさも描いている。
そのシリアスな内容とは別に、嘘をつくと吐いてしまうという看護師マルタ・カブレラ役(アナ・デ・アルマス)の若い女性キャラが面白かった。見た事、聞いた事、そして自分のやった事を秘密にし、口を閉ざすことで、ミステリーは物語が展開していくのに、嘘をついただけで吐くというのは、キャラの活かし方が難しいと思った。それでなおさら新鮮だった。
全米で大ヒットの好調ぶりを見せている『ナイブズ・アウト』は、すでにジョンソン監督が続編の準備に取りかかっている。監督はダニエル・クレイグ演じるブノワ・ブランの再登場を「楽しみ」だと語り、「やらなきゃいけないことがたくさんありますよ。まずは良くできた脚本を書かないと」と笑っている。
「早まったことはしたくないですが、(続編は)やりたい。とにかくダニエルとの仕事はすごく楽しかったですし、(続編を作るのは)アガサ・クリスティーがポワロやミス・マープルでやったことと同じですからね。探偵ブノワ・ブランで、まったく新しいことをやる。ある意味では可能性が無限大なので、そこがすごく面白いんですよ。」
