
「SHADOW/影武者」 2018年 中国 原題:影 Shadow
ぼくのベスト10に入るくらい好きな映画「紅夢」の監督、チャン・イーモウの「SHADOW/影武者」を観た。
タイトルに「影武者」なんてつくものだから、黒澤明の「影武者」を中国でリメイクしたのかと思った。その映画とはまるっきり関係がなくて、「三国志」の荊州(けいしゅう) 争奪戦をダイナミックにアレンジした歴史活劇。ちなみに、ぼくは黒澤明の「影武者」(1980年)よりは、当映画の方が何倍も面白く感じた。
映像が凝っていて、書道の黒と白の世界がそのまま現実の世界に溶け込んでいるかのよう。その落ち着いた色合いの中で時に、血のいろが赤で強調され表現されていたりと、とても細かな気配りが行き届いている映画。
構想から撮影開始までに3年半の歳月をかけたというのも納得のいく、完成度の高さ。
また、琴の演奏の場面があり、それが戦闘の場面にオーバーラップするのだが、その音楽がすばらしい。内臓に響いてくるような迫力。
監督が「自分が本当に撮りたい物語と巡り合った」と語るだけあって、本作は、第75回ヴェネチア国際映画祭にて絶賛され、第55回金馬奨では4部門受賞、第13回ASIAN FILM AWARDSでは最多4部門を受賞したという。
武器として鉄刃の傘が出てくるのだが、この傘の威力がすばらしい。この傘から鉄刃が分解して飛び出してきたり、敵地に乗り込むときに、雨のように降り注ぐ弓矢の攻撃を受けながら傘を乗り物にして、もう1個の傘で体をカバーし敵の陣地に乗り込む。その傘集団の様子は、まるで昆虫が移動しているような観たこともない光景が広がり、どこかシュールで、SF映画でもみているかのような面白さ。
このシーンの撮影のためだけに、何もなかった広場に全長60メートル、落差8メートルの巨大な町並みが、6カ月をかけて建築されたとのこと。
ダン・チャオが1人2役で自らの影武者に傘武術を指南する。
本作で一人二役を演じたダン・チャオは、影武者役のためにマッスルボディを作り上げた後、武芸の達人の重臣・都督(トトク)役のためにマイナス20キロの超減量に挑んだという。どおりで、一人二役はわかるのだが、まるで別人のようにも見えてしまうのである。
ところで、この映画でぼくがちょっとはまってしまったのは、武芸の達人の重臣・都督(トトク)のキャラ。病身で今にもあの世に行ってしまうかと思われるくらい衰弱しているように見える。ところが、見かけと違ってなかなか元気で、影武者役にフラフラになりながらも武術をキッチリ教えている。
そんな体で教えたら、もう倒れてフトンの中だろうとおもうのだけど、最後の最後まで死にそうに見えてて死なない。あげくのはては、影武者が自分の奥さんとできてしまって、抱き合っているところを『ウオーんうおーん』うめきながら壁に創った穴から覗いている。まるで谷崎潤一郎の『鍵』(かぎ)の世界だ。うめいておらず、武術の達人でパワーいっぱいなんだから、すぐかけつけて二人に話をつければいいのでは?とおもうのだが・・・・。
この映画、「三国志」が元というと、わかりにくい物語かと身構えてしまいがちだ。でも「SHADOW/影武者」は、エンターテインメントに徹しており、それに映像の芸術性をミックスしたとても入りやすい物語だった。この映像のすばらしさと、死にそうに見えてて死なない面白キャラをぜひ映画館で味わってほしいと思う。
参照:6カ月かけて巨大セットを建設!「SHADOW 影武者」メイキング映像公開
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