人が映画に面白いと感じるのは、いったいどういう条件が、必要なのだろう?
共通の面白さの仕組みを紐解くキーは存在するのだろうか?


などと考えたのは、ぼくが超!面白いと感じた「ダンスウィズミー」が『公開3週目から映画館はすでにガラガラ』なんて記事をみつけたから。ぼくにとっては、同じ監督の作成した「ウォーターボーイズ」や上野樹里をブレイクさせた「スウィングガールズ」よりも面白かった。

 

『何に面白さを感じるかは、人それぞれだから・・・』
と言われれば、それで終わってしまう問題かもしれない。でも、ぼくは自分に大いなる元気を与えてくれた「ダンスウィズミー」の作品が評価されずに、静かに上映が終わるような気がしてとても残念だ。
 


「アス」 原題:Us  2019年 アメリカ

 

● 全米では大ヒット
ところで、「ゲット・アウト」を監督した ジョーダン・ピール監督の次の監督作品「アス」を見た。映画はうさぎの身体のアップから始まる。白いうさぎの身体のアップに赤の文字で「Us」と映画のタイトルが表示されるのが効果的だった。


この世界のどこかに、自分とそっくりの人間(クローン人間)が生活している・・・・と考えると少々、不思議な気持になる。ましてやその自分とそっくりの人物が、「不幸な生活をしていて自分を羨んで仲間と結託して殺しにやってくる」と考えたらこれは怖い物語。だから、その怖さが核になっている当映画はスリルがあり実に面白かった。前作の「ゲットアウト」より好きな映画だ。


なんて褒め言葉を書くと、また「ダンスウィズミー」のように『人が入らない映画にすぐなってしまわないか? ぼくの”面白い”は縁起の悪いフレーズになっていないか?』と心配になってくる。そもそも「アス」を上映している映画館も少なすぎるが、当映画は日本で興行成績ランキングの10位にも入っていない。しかし、この映画は全米では大ヒットだったという。


● 入り口に「Find Yourself」
1986年、サンタクルーズ(カリフォルニア州)の遊園地にアデレードという少女は両親と共にでかけた。お母さんは、お父さんに「ちょっとアデレードを見ていてね。」と、言い残しトイレに行く。


お父さんは、遊園地にあるゲームで遊んでいるうちに、子どもから目を離してしまう。アデレードは、一人興味のおもむくままに、うろちょろ歩いてビーチに建てられた奇妙な建物をみつける。そこには入り口に「Find Yourself」(自分自身を見つけなさい)と書かれている。
 

建物に足を踏み入れると、鏡の部屋にたどりつく。そこで、驚いたことに自分にそっくりな少女と出会う。そのそっくりの少女は、気味の悪い表情で自分に笑いかけてくる。その建物から戻ったアデレードはトラウマにより失語症となる。


そこで、舞台はかわり時は過ぎる。その鏡の部屋に迷い込んだアデレードは、失語症も克服し子ども2人を持つ母親になっている。旦那さんのゲイブは、明るくて行動的なのに、過去の鏡の部屋でのことがトラウマになっているのか、母親は人付き合いも良くないし、家族との外出も消極的だ。情緒不安定になっている。
 

ある日の晩、外をみると謎の家族が屋敷の玄関先に侵入している。ゲイブは、バットを手に持ち「早く出ていけ!」と威嚇するがまったく動じない。よくよく見ると、自分達とそっくりの家族が赤い服を着て、手をつないで突っ立っている。

 

その家族は「警察を呼ぶ」といった瞬間に部屋の中へ推し入ってくる。アデレードが身体を拘束されたまま、そっくりな侵入者の話を聞いても、表情を見てもいかにも凶暴的な性格であるとがわかる。そして手には大きな鋭い刃のハサミを持っている。やがてそれぞれが自分のそっくりさんと命がけの戦いを展開することになる。


● 他者の自由や幸福の犠牲の上に成立
個人的に「アス」はホラー映画なんだけど、とてもアート的なセンスもあり、嬉しい。まずアデレードを演じた女優のルピタ・ニョンゴの顔をアップにした映画ポスターが芸術的だ。それと映画のシーンでは、ビルの中にたくさん部屋があって、そこにたくさんのうさぎだけが、うろちょろしている光景も、シュールで不思議。

あと、凶暴なそっくりさんの集団が手をつないで、どこまでもどこまでも連なっている場面は、物語の中で、ゲイブが思わず言ったように「パフォーマンスアートか!」というような光景。


また、ジョーダン・ピール監督は本作について以下のような趣旨のことを述べているが、これらの言葉は映画を観た後にこそ、納得する発言かもしれない。


「私たちが享受するに値すると思っているものは、他者の自由や幸福の犠牲の上に成立しているのです。アメリカ合衆国のような、特権を享受する党派的な存在がなし得る最大の害悪は、自分たちが特権に値する人間だと思い込んだり、特権に与れるのは良い場所に生まれたという幸運によるものではないと考えたりすることなのです。私たちが特権を保持しているとき、他の誰かはそのために苦しんでいるのです。つまり、苦しむ人間の存在と富を享受する人間の存在は表裏一体なのです。この点において、クローン人間たちの決起は最も心に響くものになっていると思います。」

参照:三吉彩花の直談判も虚しく…「ダンスウィズミー」は残念な結果に

   アス (映画) :ウィキペディア

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