8世帯12人しかいない小さな集落で、今から6年前の2013年7月に男女5人も殺害される事件が起きた。
この事件は、多くの人々に横溝正史の小説『八つ墓村』を思い起こさせた。「平成の八つ墓村事件」と名付けた記事もあった。

 

● 死刑が確定
5人全員を木の棒で撲殺、うち山本ミヤ子さん、貞森誠さん・喜代子さん夫妻に至っては殺害後、住宅に放火までされるという凄惨な事件だった。

 

犯人は無職の保見光成(ほみこうせい)で、殺害当時63歳という、もう初老の年齢だった。でも、ぼくのその当時の印象は、『頭に血が上ってしまったちょっと頭のおかしい人間が、瞬間的に連続殺人を犯してしまったのだろう。』ぐらいの感想だった。


一つ印象的なことがあり、犯人の家の窓には、川柳が紙に書かれて張り出されていた。
『つけびして 煙り喜ぶ 田舎者』
この内容を読むと、「つけび」と「煙り」いう単語がまるで『集落に対する放火の意志』を表現しているような、怖さを感じた。
 

保見光成は後で、この俳句の意味を説明している。担当弁護人に「〝つけびして〟は、集落内で自分の悪い噂を流すこと。〝田舎者〟は集落の人を指す。(紙を貼りだしたのは)周囲の人たちの反応を知りたかった。自分の中に抱え込んだ気持ちを知ってほしかった」と語った。

その保見光成の死刑判決が出たことをニュースで知った。
最高裁は、7月11日、被告側の上告を棄却し死刑が確定した。
 

小さな村という世界の中で保見光成は、自分がのけものにされている疎外感を感じ、それが恨みに変わり5人もの殺害に走ってしまったと思われる。しかし、殺しと放火という決着のつけ方が、許されるはずはない。
 

捜査本部は、男が近隣住民への不満を募らせた末、犯行に及んだ可能性もあるとみてた。捜査本部によると、男は2011年の元日に周南署を訪れ、約1時間にわたり相談。最後に「不満を聞いてもらってすっきりした」と話し、帰宅したという。
 

● 「血を見るぞ」「殺してやる」
郷地区出身である保見は、農林業を営む両親の次男として産まれ、中学卒業後上京し土建業に従事した。30代のころからタイル職人として神奈川県川崎市で暮らしていたが、「自分の生まれたところで死にたい」と1994年に44歳で帰郷し、実家で両親の介護にあたった。


川崎在住時は左官として働いており、帰郷した際には左官の技術を生かして自宅を建築し、地元のテレビ番組や新聞にも取り上げられるなどした。近隣の家の修繕などもしていた。


しかし保見は地区の「村おこし」を提案したが、地区住民はそれに反対し、あつれきを深めた。回覧板を受け取ることもなく、自治会活動にもほとんど参加していなかった。
 

男が飼い始めた犬(ラブラドール2匹)に対し、地区住民が「臭い」と苦情を言ってトラブルになり、住民に「血を見るぞ」「殺してやる」と大声を上げたこともあったという。本人の難しい性格も災いして、両親と死別した後、地区住民とのトラブルが相次ぐようになった。


保見光成が二十数年前、川崎市でタイル工などをしていた当時の知人らが夕刊フジの取材に応じたときのこと。保見は、中学卒業後の15歳で上京し、1994年の帰郷直前まで、川崎市で過ごしていた。男性は友人の紹介で同容疑者と知り合った。


当時、保見は名前を光成ではなく中(わたる)と名乗っていたという。「自己紹介するとき、マージャン牌の
『中』にひっかけて『どうもチュンです』なんて言ってた。見た目はいかついけど根はいいやつだった」
と男性は振り返った。


保見を雇っていた元タイル会社社長が明かす。
「うちでは六年ほど働いていたと思いますが、威圧的な物言いをするし、とにかくカネにうるさい男でした。『給料をもっとくれ』というのはまだ序の口で、給料とは別に会社の若い衆との飲み代やおやつ代を”お茶代”ということで月10万円支払っていました。
 

ほとんどは自分の懐に入れていたと思います。ただ、給料の支給日を月末締めの翌月五日払いに変え
ると言っただけで殴ってきたり、金銭的なことや仕事の態度を注意するとタバコの火を腕に押し付けられたりするので逆らえなかったのです」
 

● 愛犬・オリーブの心臓発作
保見が自宅で飼っていた愛犬・ゴールデンレトリーバーのオリーブ(8才)は、事件発生後の7月25日、山口県内の動物愛護団体に引き取られた。しかし、事件の裏では、この犬を巡り“奇妙”な出来事が起きていた。


「26日の朝、散歩から帰った後、突然、オリーブが痙攣しだしまして…。すぐに動物病院に運んだんですが、処置することもできず、心臓発作で息を引き取りました…。気になるのは、その時刻なんです」(動物愛護団体関係者)


オリーブが死んだのは、26日の午前9時6分。保見容疑者が山中で警察に逮捕されたのは、同日午前
9時5分のこと。飼い主が逮捕された1分後だった。


保見は言葉少なく語った。

「自分が警察のでっち上げで捕まった。そのせいか、オリーブも保護されたが、逮捕直後に死んでし
まった。捕まらなければ、生きていた、かわいそうに…」

保見は最近、彼にあったという記者が、彼の作った詩(川柳)を記事で乗せている。

「妄想 追い込み 抑え込み 検察時代 なつかしむ 弁護士」
 これは保見の弁護士が検察OBで、意見が合わない時に詠んだものだ。

「ねつ造で 死刑に乾杯 警察検察 いつかこの手で懲らしめる」


そして判決の前日の午後、記者は保見が何かに追われるように、自分の無罪を訴える様子を目撃している。


「犯人の靴とされているが、自分の持ち物とは色が違う」
「この靴、警察で見せられた時は、新品のような感じだった。だが、裁判所に出てきた靴の写真は泥だらけ。警察と検察に証拠をねつ造された」
 

「弁護士に話した方がいいですよ。判決前日ですから」と記者が声をかけると、こう答えた

「判決が明日? 心境も何も待っているしかないわ。心境もクソもない。とにかく、時間がない」


記者はその様子を『死刑判決への「不安」などない素振だった。しかし、一方的に話す様子はこれまでにない慌てぶりで、話すことで不安をかき消そうとしていたのではないかと感じた。』と書いている。

 

参照:死刑が確定した山口県の「八つ墓村事件」被告が獄中で愛犬の死に涙 詠んだ句