
大学をやめて、工場のバイトで食いつないでいた時期があった。
その頃、ぼくは本が大好きだった。
ある日、友達が泊まりがけで遊びに来て、その翌日の朝の事・・・・・・。
目がさめてバイトも休みだったので、ぼくは布団から出るのがおっくうで、読みかけの小説を読んでいた。友達がそれを見て呆れたように言った。
「よく、朝起きていきなり小説なんて読めるねぇ。俺には考えられねぇ・・・・」
そう言われても、単純に好きなことに時間を割いているだけなので、答えようがなかった。
ぼくにとってごくあたりまえの事だったのだ。
現在、一般的に多いと思われるのは、起きてすぐスマフォのニュースとかお気に入りのサイトなどを見ている人だろう。ぼくは今では、朝起きてすぐに、スマフォは見ないし活字も見る気にはなれない。まずは顔でも洗ってすっきりしたいところだ。本よりはテレビの方が気軽に入り込めるようになってしまった。時は流れて本に対する熱も知らぬ間に逃げてしまったようだ。
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その頃、読んだ本の中に印象的な告白があった。その本は、映画「クレオパトラ」などの主演が有名な女優:エリザベス・テイラーのダイエットの本で、題名は「エリザベス・テイラーの挑戦―私が太った理由、痩せた方法」
かなり太ってしまったエリザベス・テイラーは、朝起きて、すぐに思うことは「今日は何を食べようかな?」ということだったという。そこをぼくは立ち読みして驚いて、自分に接点があるとは思えない映画女優のダイエット本を買うこととなった。 朝、起きて胃もスッキリしないうちに即、食べ物を考えるほどに食べることが頭の中を支配しているという状況が衝撃だった。
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同じくバイト生活をしていたころ。
女友達と夕方からビールを飲みながらおしゃべりしているうちに、帰りの電車がなくなってアパートに泊めてもらったことがある。「帰りの電車がなくなった」というのは口実で、正直に言うとだらだらとわざとそうなるように遅くまで居座り続けた結果だった。それを泊まる理由付けにしたというのが正直なところだ。単なるスケベ心の甘えだった。
泊めてもらった日の朝。
耳が痛くなるようなキンキンする外国語が聞こえる。 と、思ったらその女友達が英会話のテープに合わせて、復唱していた。
「私ね、朝はいつも英会話の勉強なの。」
ねぼけまなこで見つめるぼくにそういった。
『勘弁してくれよ・・・・・・』
ぼくは正直そう思った。耳障りな英語に寝ている気分ではなくなり、しぶしぶ起きてそうそうに彼女のアパートから出た。自分のアパートに帰って寝足りないので再度、ふとんの中に逃げ込んだ。
「もう2度と泊まるものか!と思った。 泊めてもらいながら、とんだ言いぐさではあるがやはり、朝は静かに迎えたいものだ。
一日の始まりの朝、これがどんな行動や考えから始まるのかは、その人の現在の生活や個性そのものを象徴しているのかもしれないと思った。