アルベール・カミュの「異邦人」は有名な文学作品だ。カミュはフランスの作家で、史上2番目の若さで
ノーベル文学賞を受賞している。だが、46歳の若さで交通事故により急死している。
その「異邦人」という有名な文学作品を、須賀原洋行というマンガ家がマンガで表現した。須賀原洋行と
いうと、ゴキブリを描いたギャグマンガの印象が強いが、今回はギャグは封印している。何かシュールな
物語を読んだような不思議な面白さがあった。マンガの絵もぼくの好みだ。


マンガのコマの形は普通は四角形だが、このマンガでは目の形をしているのが面白い。さらにまつげの形までコマに取り入れている。口の形をしていたり、脳の形をしているときもある。このような形で描いたマンガを初めて見た。思えば、ほとんどのマンガ家は、四角いコマの中に漫画を入れて描いている。もっと自由でいいはずなのに。
そしてマンガでは、主人公から見えた世界を描いているため、本人の顔はほとんど出てこない。主人公の顔が出ないマンガのスタイルというのも、めずらしい描き方だと思った。
小説では、主人公は「ムルソー」というが、漫画では「無流想」という漢字の名前になっている。物語は、「今日 お母ちゃんが 死んだ・・・・・・」で始まる。主人公の「無流想」は、アラビア人を銃で殺してしまう。彼は法廷で殺した動機を問われ、「私が あの日 あの人を撃ったのは・・・・太陽のせいです」と答える。
彼は本気でそう答えたのだが、あらゆる物事に「合理的な意味や理由」を要求する人々にとっては、
「・・・あり得ない」という混乱の対象でしかなかった。彼は、「人間の存在になんらかの意味を付与しよう
とすること」に関して、正面から拒絶した。
だから死刑前に、牧師がやってきて「今日はあなたの刑とは関係なく友人としての面会です」と、語りか
けても彼は受け入れない。「祈りなどいらん!消え失せないと焼き殺すぞ!」「お前は自信満々だがその信念のどれを取ってもベッドに残った女の髪の毛一本の重さにも値しない!」
そして、「無流想」は独房にて、「私は自分が幸福だったし今もなお幸福であることを悟った」「私に残
された望みは処刑の日に大勢の見物人が集まり憎悪の叫びをあげて私を迎えることだけだった・・・・」
という告白で終わっている。
読み応えがあるマンガで、二度三度、目を通したくなる。小説の「異邦人」も読んでみたい気持ちにさせ
る。マンガが、小説のコマーシャルにもなっており、映画の予告編のような効果もたらしている。須賀原洋行には、ぜひ別の文学作品のマンガ化にもチャレンジしてほしいものだ。
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