「テルマ」 2017年  ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン合作
 

『母の残像』などで知られるヨアキム・トリアー監督の「テルマ」は、北欧ホラーの傑作として高い評価を受け、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞している。
 

ノルウェーの田舎町を舞台に、幼い頃の記憶を封印された少女テルマが、大学生となって
都会に出て同級生の女性アンニャと初めての恋に落ちる。しかしそのことをきっかけに、恐るべき秘密が明らかになっていく。
 

とても雄大な風景の中で、両親の抑圧が強い少女テルマの青春が切り取られて描かれる。テルマの周りで起こる不可思議な現象と自分の殻をやぶりつつ大人になっていく彼女の独特な雰囲気をうまく融合し、エロティックで静かで美しい世界を創り出している。この映画はホラーというジャンルで収めることのできない世界だとは思うが、蛇を使った彼女の性的な事への侵入を現した映像は怖くて衝撃的で見事だった。


テルマ役の女優は、まるでこの物語を演じるために生まれてきたかのように役にピッタリはまっている。彼女は、1000人以上の役者の中から抜てきされた新進女優のエイリ・ハーボー。信仰心と性的な欲望に葛藤しながら、自分の中に眠っていた“恐ろしい力”と向き合うテルマを鮮烈に演じて、本作でノルウェーのアカデミー賞にあたるアマンダ賞の「Best Actress」にノミネートされたという。


大学の図書室でテルマが勉強中に、一羽の鳥が図書室の窓ガラスに追突する。と、同時に、テルマに異変が起きてんかんの発作を起こす。この発作の演技は実に見事で、こちらに独特な不安をもたらす。


映画の中に、何度か印象的な鳥のシーンがあるが、その鳥の群れは1963年制作のヒッチコック監督の『鳥』へのオマージュでもあると、ヨアキム・トリアー監督は言う。監督はヒッチコックの大ファンとのこと。


また、音楽も重々しく地の底から響いてくるような効果を出し、心の不安定な想いを増殖させる効果を出している。さらに、この映画は主人公だけではなく、彼女が恋する同級生の女性アンニャを演じたカヤ・ウィルキンスも、神秘的で魅力的だった。映画の成功は彼女のキャラクターによるところが大きいとぼくは感じた。彼女はノルウェー系アメリカ人のモデルであり、ミュージシャンでもある。

 

参照:人によって解釈が違う…「テルマ」監督「観客それぞれを反映する鏡になれば」
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