原題 Phantom Thread 2017年 アメリカ
 

ポール・トーマス・アンダーソン監督「ファントム・スレッド」の舞台は 1950年代のロンドン。
主人公は独身主義者で、社交界から脚光を浴びる有名なドレスデザイナーのレイノルズ・ウッドコック。彼はもう老眼鏡を必要とする年齢だ。
 

● 欲しいのは創造力の刺激
レイノルズはドライブした時に立ち寄った店で若くて陽気ないウエイトレスのアルマに出会う。アルマの体形が自分の理想とするドレスを着るモデルのイメージにぴったりなので、すぐに彼女を自分の仕事兼プライベートの部屋に読んで、身体の寸法を測り始める。
 

アルマはそんな彼とのひとときを楽しんでいたのだが、突然、当然のような顔をして二人の部屋にレイノルズの姉が現れる。そしてノートを広げ、レイノルズがアルマの体のサイズを発するたびに、ノートに記入していく。
 

アルマは、彼とのデイトの時間の延長上にあった、サイズの計測がいきなり、姉の出現により完全に仕事のモードになってしまったことに、複雑な表情をする。

やがて彼女はファッションの世界へと迎え入れられ、彼の隣の部屋に住むことになる。しかし、レイノルズには彼の食事から仕事のマネジメントまでこなす姉がつねに身近に居て世話をやき、そしてモデルや仕事関係の人物が常にいることに我慢ができなくなってくる。

姉は弟・レイノルズが欲しいのは創造力を刺激し、服が引き立つアルマの肉体だけと気づいていた。ある日アルマは、朝食に微量の毒を混ぜ込む……。
 

彼との誰にも邪魔されない二人きりの時間がほしいと願うアルマと、常に仕事のことを考えている自分の世界には足を踏み入れてほしくないと思うレイノルズとの、それぞれの主張がぶつかっていく。
 

● ヒントはインフルエンザから
このファントム・スレッドが描く男と女の考え方の違いは、普遍的なことを描いていると思われる。ここで、その二人が別れたり、その後にお互いの存在のありがたみに気づいて、寄り添うという終わり方であれば、普通の恋愛映画になってしまう。しかし、その男と女の主張の隔たりは、とても奇妙で怖い形での折り合いを見つけ出していく。そこがひとひねりしている。
夫婦の関係における恋愛の究極の形を描いた本作は、デヴィッド・フィンチャー監督の「ゴーンガール」にもつながる物語に思えた。
 

映画のヒントをもたらしたのが、ポール・トーマス・アンダーソン監督の私生活でのある実体験。監督には妻と4人の子供がいるが、普段は全く家庭のことを顧みずに仕事に没頭するタイプだが、ある時インフルエンザで一日寝込んでしまった。ダウンした監督を妻が優しく介護してくれたという。しかし監督は長年みなかった嬉しそうな妻の顔に「このまま俺が1、2週間寝込んでしまえば良いと思っているんじゃないか」という思いがよぎったとか。


インフルエンザも、かかる人によっては、アカデミー賞につながる作品に結び付くきっかけを作ってくれるのだ。監督は、インフルエンザと奥さんの「嬉しそうなの顔」に感謝しなければならばならないかも?
 

参照:オートクチュールの世界が紡ぐ、狂気に満ちた究極の愛の物語『ファントム・スレッド』。