◎ 「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」2017 アメリカ 
原題:I, TONYA
監督: クレイグ・ガレスピー
出演者:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ、ジュリアンヌ・ニコルソン       
脚本:スティーヴン・ロジャース


1994年1月、オリンピックの代表選考を兼ねた全米選手権の会場で、フィギュアスケートのトップを争う二人の女性のうち、一人が相手に暴力をふるい、競技に参加できないようにした。
と、いうことまではテレビのニュースなどで、知っていた。そのフィギュアスケート史上最大のスキャンダルは「ナンシー・ケリガン襲撃事件」と呼ばれた。

 

● 5回めの結婚相手との間に生まれた一人娘

しかし、国を代表するトップクラスの選手の割には、犯罪のレベルがあまりに低すぎるし、ぼくの事件の記憶はそこまでで、それ以上のことはまったく知らなかった。この映画はそんな暴力をふるってスケート界から追放されたトーニャ・ハーディングの半生を映画にしている。

 

主人公の女性トーニャは、幼い頃からスケートを習い始めた。
彼女がいかにして、オリンピックに行くまでになったかというと、強力なスパルタ方式のスポーツ教育ママ・ラヴォナがいたからだ。ラヴォナの本心がよく読めない独特の無表情と、死んだような、時に蛇のような目は忘れられない。
母親のラヴォナ役を演じたアリソン・ジャネイは、言葉と暴力で娘をねじ伏せる鬼母を怪演してアカデミー賞のほか、第75回ゴールデングローブ賞などを受賞している。

 

母ラヴォナは、5回めの結婚相手との間に生まれた貧困家庭の一人娘の為に、ウェイトレスとして稼いだ金を注ぎ込んでレッスンを受けさせる。娘を蹴り飛ばしたり、怒鳴りちらしたりしながら、ひたすらスケートのみに打ち込ませる。その母親の態度は明らかな虐待だったので、
児童相談所に連絡してトーニャを保護すべきと考える人も多かったという。しかしそうなるとトーニャは施設に入ることになり、すでに全国レベルのフィギュアスケーターだった彼女がスケートを続けられなくなってしまうため、止むを得ず黙認していたとのこと。

 

母のスパルタ教育と本人のスケーターとしての資質おかげで、アメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、1992年にアルベールビル五輪、2年後にリレハンメル五輪代表選手となった。そして、トーニャが暴力的な母親から逃れるようにして結婚した相手・ジェフ・ギルーリーもやはり暴力的な男性だったという、皮肉な結果になっている。

 

この映画は、最初にトーニャが大会でトリプルアクセルを成功させて滑ったその様子をカメラで丁寧に追っている。それが、氷とシューズの刃が氷とすれる音、聴衆の声や拍手の音、
音楽、それらがまじりあい、まるで自分が今現在滑っているかのような臨場感を見ている人に与えてくれる。

 

フィギュアスケートには速い動きがあり、身体の線や競技を美しく見せる衣装があり、本人の笑顔があり、難易度の高い技を決めたときに、建物が割れんばかりの喝采がある。まさしく、映画向きの要素がたくさんちらばっているということがわかる。

 

● 世界中でスパイ活動をしていた

マスコミでは、本人がライバルのナンシー・ケリガンに暴力をふるったかのように報道されたりもしたが、その真相が映画で描かれている。犯人は彼女の夫の友人の思い込みによる暴走だということだ。

 

その夫の友人のショーン・エッカートは、ぶくぶく太っていて、童貞で、頭がちょっといかれているしょうもない人物として描かれている。
自分のことを「世界中でスパイ活動をしていた」などと、語っているからよけいアホらしくておかしい。(実際の本人のニュースのインタビューでもそうだった)。ぼくはこの頭がいかれていて、おもいっきりの勘違い男であるショーン・エッカートを抜群の面白さで演じたポール・ウォルター・ハウザーにも賞を与えてもいいのではないかと思った。

 

トーニャは事件後、元夫にプライベート・ビデオを暴露されたり、同棲している恋人に暴行を働き逮捕されたりと、常に災難?が降りかかることに・・・。
それに映画では描かれなかったが、トーニャには実は父親の違う兄がいて、彼から日常的に性的虐待を受けていたという。ここまでくると、さすがに本人の人生が暴走してもしょうがない気もしてくる。

 

その後彼女はプロボクサーや総合格闘家などに転身を図るもいずれも成功しなかった。以降、フィギュアスケートの解説はもちろん、その他の話題にも上ることはなかったという。

 

参照:『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』実はもう1本、事件を描いた幻の映画があった!
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