◎ 「ダンケルク」2017年 イギリス、オランダ、フランス、アメリカ
原題:Dunkirk
監督:クリストファー・ノーラン
出演者:フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン
会社社帰りに、スマフォのYouTubeで映画解説をよく聞いている。今、一番面白いと
思っているのは、ラジオ番組「たまむすび」で放送された町山智浩の映画評論「アメ
リカ流れ者」をアップしたもの。いったい、何本の町山智浩の映画評を聞いてきたこ
とか。彼の話しは深いし、ためになるし、それでいてユーモアもあってぼくを飽きさせ
ない。
7月にラジオ番組「たまむすび」で放送されたのは、映画「ダンケルク」の解説。
「ダンケルク」に関して以下の3点が記憶に残った。
・アメリカで公開され戦争映画で、アメコミ物でもスーパーヒーロー物でもないので、
ヒットすると思わなかったら、びっくりするぐらいヒットしている。
・戦争を実際に体験しているような気持にさせる。「あなたは1人の兵隊としてこの
戦闘に参加しなさい」という映画になっている。遊園地のバーチャルリアリティーに
近い物として作られている。
・『ダンケルク』が戦争映画として非常に特殊なのは、「敵を倒す」ということを描いて
いない。「人を殺す」ってことじゃなくて、「人を救う」事を描いている。
町山智浩が熱く語っていたし、一般の観客も平均以上の評価点をつけている人が
多いので期待して観に行った。
冒頭、数名の若者が敵の銃に打たれて必死に走って逃げるシーンから始まる。
一人、銃弾に倒れ、また一人、と次から次へと敵に撃たれ、最後に一人になった若者
が、大きな塀をよじ登ってその後に逃げ切れるか否か・・・・・・と、緊張感に包まれる
出だし。
1940年の5月24日から6月4日の間に起こった「ダンケルク撤退作戦」という、第二次
世界大戦のはじめの時にあった事を描いた話。タイトルの「ダンケルク」とは、フラ
ンスにある海岸の地名。
ナチス・ドイツ軍に追い詰められたイギリス軍とフランス軍40万人が、民間の船の約
700隻に助けられ、イギリスまで撤退させたという作戦を描いている。
ストーリーは三本の話が同時に進んでいる。
1.自分たちの状況がわからずひたすら敵の銃弾や爆弾から逃げてダンケルク海岸
を離れるために悪戦苦闘する兵士トミー。
2.救出作戦を支援するため戦闘機でドイツの戦闘機と戦い、ダンケルクに向かうパイ
ロットのファリアー。
3.民間の船「ムーンストーン号」で、イギリス兵を助けるために向かう船長ドーソンと
その子供と途中で救助して船内に入れた負傷兵の話し。
映画は、時計の針がチクタクと鳴っているサウンドをバックに流していて、実際に戦場
で逃げているかのように、自分の鼓動を聞いているようにハラハラして怖い。特に船の
中で仲間とひたすら満潮になって船が出発できるのを待っているときに、敵の弾丸が
船体に穴を開けそこから海水が入り込んでくるシーンは怖かった。
空を舞台にした空中戦は、海の広々とした蒼さと、同じように大空の青さのなかでの
戦いがダイナミックだった。
部分的なシーンには心が動いたが、結局、三つのストーリーがどこでどう絡むのか
最後まで意味がわからなかった。
『あれ?ぼくはこの映画の何をみているの?』と、ストーリーにおいてけぼりにされ
て、迷路に迷い込んだような状態で、気がつけば、映画は終わっていた。
要はこの三つのストリーはそれぞれが独立して完結するという構造になっていたこと
が後になって調べて分かった。
映画の帰り道で、ぼくと同じように「ダンケルク」を見た高校生くらいの女性の2人組
の会話が聞こえてきた。
一人の女の子が、訴えていた。
「私、エンドロールが始まってすぐに寝ちゃった。意識、飛んじゃってるのよ。覚えてな
いのよ。エンドロールが。」
ぼくはそれを聞き、『でもエンドロールだったら、肝心のストーリーの部分は寝てない
からまだいいのではないか』と、思ったのだが、次の言葉でそのレベルではないこと
がわかった。
「もう映画の最中、『寝ちゃだめ、せっかく映画館に来て見てるんだから寝ちゃだめ』っ
て、ひたすら眠さを意識しまくってたわ。映画の中で、兵士が敵と戦ってたわけだけど、
私は眠気と戦ってて、最後のエンドロールで落ちて、負けちゃったわよ。」
それを聞いてたもう一人の女の子も、「本当、眠かった~。私だけでなくて良かった。」
と言って顔を見合わせて「サイテー」とか言いながらゲタゲタ笑っていたのがおかし
かった。
戦争映画は特に事前に大まかな歴史的背景くらいは知っておくべきなんだろけど、もう
少し内容をわかりやすくしてもらえないと、しんどいと思った。それにしても、映画は死
につながる緊張状態を描いていて、それでもその場面を観ているのにひたすら眠いと
いうのは逆に怖いかもしれない。
監督のクリストファー・ノーラン監督は『極限状態』に関して、このようにインタビューで
答えていた。
「観客を極限状態に引き込むために、できるだけキャラクターを極限状態に引き上げ
なくてはならない。どのようなリスクや条件、制限があるのか、その世界観のなかで
キャラクターをどこまで追い込めるのかを、いつも考えています。
ただ、今回の『ダンケルク』は少し違うアプローチといいますか──これまで撮って
きたような個人のヒロイズムではなく、集団のヒロイズムを描きたかった。観客が主人
公たちと同じ極限状態に置かれ、彼らと旅をすることによって辿り着ける場所、集団の
ヒロイズムが為し遂げられる瞬間を見せたかったのです」
(ヒロイズム:英雄的行為を愛し、または英雄を崇拝する主義。)
参照:映画『ダンケルク』クリストファー・ノーラン監督インタビュー「いまこの映画を撮ることができて、良かったと思っている」
