◎ 「イニシエーション・ラブ」 2015年 日本
監督:堤幸彦
キャスト: 松田翔太、森田甘路、前田敦子、木村文乃
映画のポスターに惹きつけられた。
今は亡き俳優・松田優作の息子の松田翔太の表情がすばらしい。
「イニシエーション・ラブ」は、映画の前に小説で読んでいた。
カバーには「最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に
変貌する」と注意書きがある。一見純粋な恋愛物語が、原作の最後2行に待ち受けるト
リックにより、ミステリーに変貌する。
2014年3月3日に放送されたバラエティー番組「しゃべくり007」でくりぃむしちゅーの
有田哲平が原作小説を「これはもう最高傑作のミステリー」と絶賛したことから、翌4月
には発行部数100万部を突破したという。
推理小説を読み慣れていなくて、さらにトリックに疎いぼくは、「イニシエーション・ラブ」
を普通の恋愛小説だなぁと思いながらも、面白く読み進み気が付くと、小説は読み
終えていた。
『あれ?いったいこの小説のどこが推理小説のカテゴリーに入るわけ?』
なんて思ってしまったほどだ。つまり、最後から二行目を読んでもピンとこなかったのだ。
それで、ネットで検索して説明を何度か読んでようやくそのトリックの意味が理解できた
というちょっと間抜けな顛末となった思い出がある。
ところで、映画版の「イニシエーション・ラブ」。
『小説には勝てないのでは?』と思いながら見たのだが、これは面白かった。
前田敦子演じる繭子はもてもて女子なのに、なぜかどんくさい就職活動中の大学生・鈴木
を好きになる変な優等生ぶりも良かった。
そして、ぼくが関心したのは、少女漫画を実写化したような、登場人物の廻りに効果とし
て花が散らばめられているシーン。
大学生・鈴木の繭子に対するまぶしいばかりのキラキラした想いを映像化したものだが、
これには大いに笑った。
昭和が舞台のせいもあり、いろいろなアイテムがぼくには微妙に懐かしい。
この懐かしさは、美術監督のこだわりによるものだと。後でわかった。
舞台は1980年代後半の静岡。
同じ時期に青春を過ごしたという美術監督の相馬直樹さんは、自身の思い出を振り返りな
がら本作の美術プランを考えていったという。
「今はもう古いものばかり。イメージを描いた後に、あまりにも手に入らないと困ってしま
うので、装飾部のスタッフと相談しながら考えていきました。僕は結構無茶な要望もしたの
ですが、わがままをよく聞いてくれました」
静岡にある設定の主人公・鈴木の部屋は、6畳ほどの和室がある1DKのアパート。室内は、
地べたに布団が敷かれ、本棚には趣味の小説が並ぶ。黒電話、ブラウン管のテレビや
扇風機、さらにVHSテープなど懐かしいものが揃う。
「なるべく分かりやすいアイテムを揃えていきました。恋愛経験のない彼は、マユと出会っ
て変わっていくので、まずはいたって普通の男性の部屋にすることを心がけました」
その忠実な昭和のアイテムの再現が嬉しく、そのこだわりが映画の内容にも深みを与えて
いる。
参照:イニシエーション・ラブ バブル最盛期の若者たちの暮らし
