◎ 「10番街の殺人」 1971年 イギリス
監督: リチャード・フライシャー
出演: リチャード・アッテンボロー、 ジョン・ハート、 ジュディ・ギーソン 


アメリカ・ボストンで女性を性的な暴行を加えた上で、13人も殺害したといわれ
るアルバート・デサルヴォの実録映画、「絞殺魔」。デサルヴォは精神異常でかつ
二重人格を思わせる人物で、彼を描いた映画「絞殺魔」は人間の怖さと不思議さを
思わせ、異様な迫力に満ちた映画だった。

8人の女性を殺した連続殺人鬼の実録映画の「10番街の殺人」は、その同じ監督
リチャード・フライシャー の作品だと知って、うなずいてしまった。この事件で無実の
罪を着せられ死刑となった男がいたため、後でイギリス国内で死刑廃止を決定づ
けたという点でもぼくには忘れられない作品となった。

元警察官で、郵便局にも努めていた中年のジョン・クリスティ(R・アッテンボロー)
は、結婚していてアパートの2部屋を貸していた。ある時、そこの2階に若夫婦が
越してくる。禿で小太りで容貌のさえない中年男にしかみえないのだが、彼は医学
知識のあるふりをして女性をだまし快楽殺人を行うシリアルキラーであった。

クリスティは2階を借りた若夫婦の奥さんから妊娠した子供を堕胎したいとの相談を
受ける。その相談に乗り、医学的処置を施すふりをして奥さんを殺してしまう。その
罪はだんなのティモシー・エヴァンス(ジョン・ハート)に被せ、裁判でも無罪を勝ち
取り一時はうまく罪を逃れるのだが・・・・・・・

クリスティは、普段は人のいい、小心者の容貌のさえない男にしか見えない。しか
し、ひとたび女性を殺す計画を立てるときから、活き活きと女性に語り、そして殺害
の為に動き出す。
殺害の瞬間、目はぎらつき鼻息は荒くなり、獣と化す。

クリスティが2階の奥さんをまさに殺そうとした当日の、殺害前後の場面の緊迫感あ
ふれる描き方がいい。

用事を言いつけ、自分の奥さんを外出させる。 殺しの道具を鞄にしまい、2階の

若夫婦の奥さんへのお茶を用意をし、いざ、これから殺そうと2階に上がろうとする

とき、玄関のベルがなる。
出てみると男の二人組。屋根の修理に来たという。はじめは断ったのだが、その修理
を始めることになってしまう。男は彼女の殺しをあきらめたかのように見える。

その時、2階から当の女性の催促が入る。「まだ?」彼女は、子供を堕ろす処置を今日、
してもらえると覚悟していたのだ。
結局、男は2階に上がり彼女にふとんに横になるようにお願いする。彼女の口に吸引
機を装着し、2本の管の一本はガス管につなげ、これを吸わせる。

彼女は、苦しさと男の異常さに気が付き、その吸引機をはずそうとしてもがく。男は
彼女の顔面をなぐり、縄ひもで彼女の首をしばりあげ、殺してしまう。と、今度はドア
にノックの音。彼女の友人が訪ねにきたのだ。「居留守をつかってもだめよ。」と、
その友達はドアごしに粘る。

この次から次へと展開するハラハラドキドキがたまらない。また音楽はオープニング
以外に使っていないので、映画というより、実際の犯人のドキュメント映像でも見てい
るような気持ちになる。

1898年生まれのクリスティが45歳の時に最初の殺人を犯したときの感想。
「最初の殺人にはゾクゾクしたよ。私自身が望んでいた道に、ついに足を踏み入れ

たのだから───。そう、殺人者への道だ」


彼は自分の奥さんも手にかける。
クリスティが住んでいたアパート1階の新しい住人が、部屋の壁の裏から、遺体を

発見する。そこでようやくクリスティの逮捕に至る。


クリスティを演じた リチャード・アッテンボローは、監督もやっている有名な俳優。
日本でもファンの間で、ケンタッキー・フライドチキンの「カーネルサンダースおじさ
ん」そっくりと親しまれた。

監督作品としては、「マジック」、「ガンジー」(アカデミー監督賞を受賞)、「遠い

夜明け」、 「コーラスライン」 などがある。また俳優としても、1966年公開の「砲艦
サンパブロ」と1967年公開の「ドリトル先生 不思議な旅」の名演技でゴールデン・グ
ローブ賞を受賞した。また『ジュラシック・パーク』でジョン・ハモンド役を見事に演じ

た。大活躍な監督であり俳優であったのだが、余生はつらいことが多かったのでは

ないか。


3人の子供がいたが、2004年、タイのプーケットで休暇中だった親族がインドネシア・

スマトラ島沖地震に遭遇し、長女と孫娘を失う。
2008年に階段から落ちて以来車椅子で余生を過ごしていたという。2年前の2014年

8月に死去。享年90歳だった。
 

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