「日の名残り」1993年 アメリカ 監督 ジェームズ・アイヴォリー
「日の名残り」という恋愛映画を15年ほど前に観ていた。
あまり恋愛映画を見ないので、確かこれは、別の映画との二本立てで
名画座で観た。
もう一本の映画は忘れてしまったのだが、この「日の名残り」という映画は
心に染み入る本当にいい映画だった。
男はアンソニー・ホプキンスが演じている中年の男スティーヴンス。
ただひたすら仕事に邁進する男。完璧な仕事をこなしていく男の姿というの
は、たとえ英国貴族の自宅の執事という、どこか地味な仕事でも美しさを感
じるものだ。その執事のもとに、女中頭として入ったミス・ケントン。
その彼女は、執事の事を好きになっていくのだが、それを知りながらも彼女
を受け入れる姿勢をとろうとしない。
そのもどかしさの中で、ミス・ケントンは愛のない結婚をすることになり、
御屋敷を出ていく。それをただじっと見送るだけのスティーヴンス。その後、
彼女から20年ぶりに手紙が来る。
「私はしばしば、ダーリントン・ホールで女中頭をしていた頃を思い出します。
あなたと共に過ごした日々が、人生で一番幸せでした」
今は家出をして、下宿屋に住んでいるという。
その彼女に、初めて会いに行く決断を取った執事。生まれて初めての独り旅。
そしてラストシーンにつながっていく。
この映画は、はでなラブシーンもなければ、見栄えのする男女が主役なわ
けでもない。特に話したくなるような豪華絢爛なシーンがあるわけでもないし、
ミステリーな要素があるわけでもない。
『でも、忘れられないいい映画だった。それはなぜなのか?』と、当時、言葉
で映画や自分の心情を説明できない自分にもどかしさを抱いていた。
出張帰りに立ち寄った本屋で一冊の本を買った。
「トラウマ恋愛映画入門」(著:町山智浩)という。新幹線の中で読んだ。
そこでは、この映画を「愛を隠して世界を救いそこなった執事」という題をつ
けて13ページ分、書いている。町山の文章を読んで、日の名残りの印象的
だったシーンが目の前に浮かんできた。なぜ、この映画が名作なのかを実に
あざやかに甦らせている。
町山智浩の文章力はまさに絶品。涙が浮かんできて、場所が新幹線の中
なのであわてて、本を閉じた。「日の名残り」という映画を観て感動した方は、
ぜひこの本の「日の名残り」の事を書いた部分を読んでみてほしい。
僕が涙が浮かんできた事に共感してもらえるかも・・・・・・。
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