生物の中で、社会生活を営むのは、人類のほかに、アリとハチの社会だけである。
ここで、言う社会生活の大原則は、仕事に分業があるということと、共同作業をする
ということ。
蟻は戦争し、捕虜を捕え、奴隷を養う。きのこを栽培したり、乳牛を飼ったり、子守
を置いたりする。女もいれば軍隊もある。もちろんこれらはみんな特殊の種類の
アリの話だが。
※
ある山師が計画を立てた。
ブラジルのある地方の蟻を全部駆除すれば広大な耕地に使えるようになり、ブラ
ジル政府から百万ドルの報奨金をもらえる、というのである。
仲間が三人で現地にのりこみ、まず薬を手に入れた。ただの殺虫剤では何億と
いう蟻を殺しつくせるものではない。伝染病の菌をまけばいいではないか、と彼らは
考えた。これこそ今まで誰も考えつかなかったグッド・アイデアだ。
天然痘菌など最適ではないか。
という次第で、大蟻に体中喰われながらも蟻の大都会の中心に天然痘菌をバラ
まき、命からがら逃げた。何とか生命はとりとめたものの助かったと思うと気絶し
てしまった。
明くる日、気がついた時、我々三人共全身に油と亜鉛華軟膏を塗られて、田舎
病院のベッドに寝ていた。しかも僕の片腕は、余りひどく蟻の毒が廻っていたので、
外科医の手で切断されてしまっていた。結局、儲けたのはその外科医で、我々の
蟻征伐より遂にいい仕事をしたわけだ。
そして、その医者のいうのには、何はともあれ、蟻に天然痘は伝染しない、という
ことだった。
《マヌエル・コムロフの「蟻」より(葉田陽太郎訳)》
これらの文章は、間 羊太郎の「ミステリ百科事典」という本からの抜粋になる。
この「ミステリ百科事典」は、ミステリーに関わらず、いろいろな面白い小説の
ストーリーの概略や、テーマ―に即したウンチクが述べられている。
時間が空いた時に、ふと手にとってみると、ついつい引き込まれ読みふけって
しまう。人間の想像力、そして創造力、またこの世の不思議さを味わえるとても
嬉しい本。興味をもった方、ぜひ読んでみてください。
参照:ミステリ百科事典 (文春文庫)