◎ 仁義の墓場 1975 日本
監督 : 深作欣ニ
出演 : 渡哲也 多岐川裕美 ハナ肇 梅宮辰夫 池玲子 芹明日香
田中邦衛 室田日出男
一昔前の日本映画は、ぼくには洋画と同じような効果がある。
現在の見慣れている風景とは、別の世界につれていってくれる。
30年以上前に作られた深作欣ニ監督のやくざ映画をDVDで見て引き込まれた。
深作欣ニ監督『仁義の墓場』では、狂犬と恐れられた実在した人物・石川力男
の駆け足で散った人生が描かれている。
ほとんどの人が自分の欲望や闘争力を抑えて、世間に合わせて静かに生きて
やがて静かに生を全うする。しかし、彼は正反対。安定した光景をことごとく
壊していく。
それは、たむろしている娼婦に向かって、いきなり”かける”ような立ちしょん
べんをする場面からも感じられる。まるで彼女らに「散れ!」と言わんばかり
に。
「何するんだよ!」と、娼婦は驚いて体を引き彼に罵声を浴びさせる。
「うるせい、きさまら、黙っとれぃ!」石川は、娼婦達に怒鳴る。
それまで、止まっていた風景がそこで動く。
石川力男の行動はいつも平穏を破壊し、全てにいらだちを伴って見えてくる。
「組のためを思って」という彼の言葉には、親分から
「片っ端から障子に穴を開けるような真似をしやがって」と、すぐに否定される。
ヒロポン中毒になるわ、自分の組の親分には切りかかり、半殺しするわで、
石川力男の行動判断に常識はないかのようだ。しかし、そのめちゃくちゃな
生き方を見せる渡哲也から目が離せなくなってくる。
彼は強姦して「てごめ」にした赤線の女と所帯を持っている。
そんなめちゃくちゃな男につくす、妻役の多岐川裕美の姿が痛々しい。
最後に彼女は病気で吐血して、自分の血溜まりの中に身をふるわせる。やがて、
病を直す気力もないままに、ヒロポン中毒の夫を残し自殺を選んでしまう。
彼は自殺してしまった妻の骨壷を体から離さない。
自殺した妻の骨をカリカリかじりながら、かつて自分が歯向かった親分のいる
組で背中を丸めて語る。
「おやじさん。なげぇ事迷惑かけたけど・・・俺もそろそろ一家を起こしてェんだ。
土地くれませんか?事務所も建てたいんで銭も二千万を俺に」
と、にじりよるその姿は、薬で顔色が悪く目だけギラギラ光っていて、まるで
死神のような迫力だ。
石川力男は自分の欲望にだけ盲目的に従がい、気がつけばまた刑務所の中
にいる。
最後は、監房の屋上から大空にダイビング。飛び降り自殺で、己の人生に見切り
をつける。
そのいさぎよさが、彼の独房に彫られていた
「大笑い、30年のバカ騒ぎ」の言葉とオーバーラップする。