昨日も開いた本を今日もまた拾いよみをしている。
その本は黒木香と伊藤比呂美の共著で、「性の構造」という本だ。
黒木香は、元AV女優で、伊藤比呂美は詩人。伊藤比呂美は現在も
活躍中で、たまに名前を聞くが、黒木香は完全に表舞台から姿を消し
てしまった。黒木香は今、どうしているのだろう。
井田真木子が「フォーカスな人たち」という本で5人の人物を取り上げて
いる。その一人に黒木香がいる。その本で取り上げられてから以降
の彼女の詳しい状況は今でも何もわからない。
その取り上げられている1994年。「フォーカスな人たち」には、このように
書かれている。
一九九四年春、黒木香という八十年代の申し子は、その場所を探し出した。
一軒の宿である。
その安宿で、彼女は終日横たわったり、本を読んだり、食事をしたり、
しなかったり、酒を呑んだり、呑まなかったりしながら、深く濃い厭世感
でわが身をくるみこむようにして、わずかな眠りとおぼつかない覚醒
を繰り返していた。
一九九四年、黒木香の”わたくし”は、たまにあたたかい日差しを浴びて
散歩するのを楽しみに、暗い商人宿の一郭で息づいていた。
その本の中で、黒木香は、かつて恋人であった村西とおる監督について、
このように語り、またひるがえって自らをこう語る。
「アダルトビデオは性表現芸術のひとつですが、同時に市井で売り買い
されるポルノでもあります。そして村西さんはポルノであることを卑下
されましたが、私はそこに愛着するのです。私はポルノが好きです。
誇りを持ってそう申します。
私はワイセツの世界に生きる一人の女として、プライドを持ち続けて
きたのです。それが、私を求めてくださるたくさんの人たちの期待を
裏切ってはいけないという気持ちに通じていました。
今でもその気持ちに変わりはありません。まだ何の明かりもともらない
薄い希望ではあるけれども、私は自立した黒木香として生きていきたい
と思います」
ところで、この「性の構造」という本。
この本は、いつ読んでも何か新しい感覚で言葉がぼくに訴えかけてく
る。二人の対談が本になったものだが、どこを読んでも充実している。
特に黒木香の言葉が好きだ。
たとえば、このようなやりとり。
黒木香が精液は映画からいただくもの、飲むものだと勉強したと、
語ったことに関して、
伊藤 精液はいただくものだというのは完璧よね。だって精液いただ
かなくっちゃ、子供ができないもの。
黒木 そうなんですよ。
伊藤 でも、飲んじゃったら間違いだと思わない? 子供できないわ。
黒木 ただ、パターンとしては、ヴァギナか、アナルか、さもなけれ
ば口の中に射精されるしかないわけですよ。
(中略)
ヴァギナの場合は正に生殖行為ですよね。たとえ受精にいたら
なくても。
で、口というのは、私の肉体の中に入って受精卵にいたらなかっ
た無数の精子達を弔ってあげるための場所だという気持ちがあ
るんです。
PR:性の構造
黒木 香 (著) 伊藤 比呂美 (著)
